日本政府は2050年カーボンニュートラル(実質ゼロ)の実現に向けて30年までの温室効果ガス削減目標とエネルギー利用に関する「エネルギー基本計画」を見直し、7月にまとめる。資源エネルギー庁次長を経て経済産業省を退官後、東京大学公共政策大学院客員教授を務める本部和彦氏に、見直しを巡る課題を聞いた。

東京大学公共政策大学院客員教授・本部和彦氏(写真:北山 宏一)

欧米並みの目標強化も

菅義偉首相が、意欲的な30年目標を表明する方針を明らかにした。

本部:50年実質ゼロを宣言したのは英断だが、現在の30年目標を大幅に強化せざるを得ない。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの科学的知見がこの2つの実現を求めているからだ。50年実質ゼロを実現するために毎年、一定割合で削減するなら、30年に13年度比で40%以上の削減が必要になる。

 欧州連合(EU)はなるべく早期に排出量を大幅に減らすことを支持しており、30年目標を1990年比で55%削減に引き上げることを決めた。米国も、11月に開催される気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)までに、オバマ政権時代の目標を大幅に強化する可能性が高い。

 日本は15年、現在の30年目標を当時の欧米の目標と比べて遜色ないレベルとして採用した経緯がある。米欧が40~50%台に目標を強化するなら、菅政権が同じような厳しい目標を採用する可能性がある。

日本はその目標を達成できるか。

本部:達成は不可能ではないが、3つの覚悟をせざるを得ない。1つ目は高額な電気料金、2つ目は産業競争力の維持、3つ目は既存の原子力発電を使い続けることだ。

 電気料金が高くなるのは、日本は安価な再エネ資源に乏しいからだ。発電コストの高い再生可能エネルギーを主力電源として利用拡大し、20~30年代に大幅な削減を実現すると電気料金はどうしても高くなる。

政府は昨年末、50年の脱炭素化に向けた「グリーン成長戦略」を示し、洋上風力発電や水素の普及拡大を盛り込んだ。30年までに全国で1000万kW分の洋上風力を建設するという。

本部:その洋上風力も、年間を通じて強い偏西風が吹く欧州に比べて、風況に恵まれていない。我々が日本海沖の洋上ウインドファーム有力候補地の4地点で平均風速を評価したところ、冬は強風が吹くが、夏の風速は約4カ月にわたり月間平均風速が毎秒6mを下回ると分かった。年間平均風速は毎秒7.7mだ。

 一方、欧州の北海にある洋上ウインドファーム7地点では年平均で毎秒10mの風速が得られる。出力9500kWのヴェスタス製風力発電機を使うと想定すると、欧州の年間平均風速なら1年間に約4500万kWhの発電を期待できるが、日本はその65%に当たる同約2900万kWhしか発電できない。夏でも欧州は十分な出力が得られるが、日本では平均出力が約20%に落ち、出力が10%以下になる時間帯も欧州に比べて圧倒的に長く、数日に及ぶこともある。

 年間を通じた風車利用率が低いため発電コストが高く付き、発電事業の儲けは薄くなる。加えて夏の出力低下を補うために保有する他の発電設備がさらにコストを押し上げる。現在の電気料金よりも高くなるのは確実で、欧米と比べても高くなる。

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