ファーストリテイリングは2021年12月、サステナビリティ(持続可能性)の2030年度目標を公表した。環境や社会に配慮したビジネスモデルに転換し、持続的成長を目指す。中でも力を入れているのが調達先の人権対策だ。

ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員の柳井康治氏(写真:ファーストリテイリング)
ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員の柳井康治氏(写真:ファーストリテイリング)

 「世界中で起きている問題を事業活動を通じて解決していく。お客様に世界で一番安心して買い物をしてもらえるアパレルブランドとして認識してもらうチャンスであり、チャレンジしていく」。2021年12月2日、ファーストリテイリング取締役グループ上席執行役員の柳井康治氏は報道陣を前にこう話した。

人権は最重要課題

 同日、気候変動や資源循環、人権などサステナビリティに関する30年度の目標と活動計画を公表した。例えば、自社の温暖化ガス排出量(スコープ1=自社の事業所での化石燃料の利用による排出、スコープ2=購入した電力や熱の利用による排出)を19年度比で90%削減、社外での排出量(スコープ3=調達先や製品を使う客先などでの排出)を同20%削減する。全使用素材の約50%をリサイクル材などに切り替える。ESG(環境、社会、ガバナンス)を考慮したビジネスモデルへの転換を加速させ、持続可能社会の実現と事業の成長の両立を狙う。

 中でも、人権は最重要課題に位置付けて対策を徹底する。ファーストリテイリングは04年に取引先工場の労働環境や人権を守るための行動規範を策定し、順守を求めてきた。第三者機関による監査や現地訪問を実施し、工場の従業員が人権侵害などを受けた場合に通報できるホットラインも設けている。主要縫製工場と主要素材工場のリストを公開しており、22年3月には全縫製工場を開示する予定だ。

 縫製工場や素材工場に加えて、さらに上流の紡績工場や原材料の調達段階まで遡ってトレーサビリティー(追跡可能性)を確保する。そのために、21年7月にはグローバルで100人規模のプロジェクトチームを立ち上げた。自社による現地訪問などを通じ、問題を早期に発見、是正する人権デューデリジェンスを徹底していく。

 背景には、中国・新疆ウイグル自治区で少数民族の強制労働が疑われ、同地区産の綿の使用を巡って衣料品業界に厳しい目が向けられていることがある。ファーストリテイリング傘下のユニクロも一部の綿製品が米国への輸入を差し止められる事態が生じた。

 同社グループ執行役員の新田幸弘氏は、「これまでも深刻な問題が発生した場合は取引を停止してきた。原材料まで遡ってありとあらゆる地域において人権侵害がないことは確認している」と説明する。

 今後、情報公開をさらに進め、ステークホルダーと積極的に対話していく方針だ。「我々のことをすべて理解してもらう」(柳井氏)ために経営の透明性をより高めていくことが、持続的成長に欠かせない要件になるだろう。

「日経ESG」は企業が持続的に成長するために欠かせないESG(環境・社会・ガバナンス)に焦点を絞った経営誌です。経営者の羅針盤になった「SDGs(持続可能な開発目標)」、対策が待ったなしの気候変動問題、投資家が注目するガバナンス改革など、世界の動向を踏まえてESGの最新情報をお伝えしています。

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