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私学の雄、早稲田大学も世界のトップ校に並ぶ教育力、人材育成を目指して改革に動く。教員の国際公募を本格化し、学生には日本語、英語両方による論理性構築教育、そして数学、統計学などを全学生で学ぶ文理融合も積極的に進める。人材育成で東京大学を超えるか。2018年の就任以来、改革を加速する田中愛治総長に聞いた。

(写真:PIXTA)

2018年の総長就任時には「世界で輝く」大学になると言われました。なぜ早稲田に改革が必要だと思ったのですか。

田中愛治(たなか・あいじ)氏
1975年3月、早稲田大学政治経済学部卒。85年12月、オハイオ州立大学大学院修了、政治学博士。東洋英和女学院大学助教授、青山学院大学教授などを経て、98年4月早大政経学部教授。世界政治学会会長などを歴任。18年11月総長就任。

田中愛治・早稲田大学総長(以下、田中氏):私は1975年に早稲田の政治経済学部を卒業し、すぐに米国の大学に留学しました。その後、日本の大学で教壇に立ち、98年4月に早稲田に戻るまで約23年、離れていました。その間、外から見ていて感じたのは、私立のトップ大学であるという自負に満足しているのではということでした。

 米国に10年半滞在し、海外の学会にも多数出席していましたが、国際化を相当に進めないと早稲田も日本も国際社会に貢献できなくなると思ったのです。世界は互いに非常に深く絡み合っているので、国内問題も国際的な視野で見ないと解決できないし、国際問題も国内の状況を理解していないと動かせなくなっていました。社会を変えようとすると、国際的な視野なしには難しくなっていたのです。

教員は「自分より優れた人」を採用

1997年にアジア通貨危機が起こり、2000年に入るといわゆるIT(情報技術)バブルが崩壊します。日本はその頃からデフレも始まっています。世界経済が一体化し、大学もグローバル化に対応する研究・教育力が必要になっていました。

田中氏:私が早稲田に戻った頃の奥島孝康総長以降3代の総長は、グローバル化に力を入れていました。世界の多数の大学と提携し、2004年には国際教養学部を新設しています。ただ、国際性を高めるだけでは、世界の大学と競えるような大学にはなりきれないと思い、教育の仕組みを変えるよう努力しました。本当の意味で学生が世の中に役立つように育てる。そして国際的に勝負できるような教育の質を体系的に整えていくということです。

総長になってまず教員採用の方法を変えました。「世界で輝く」大学になるカギですね。

田中氏:まず教員採用は、国際公募で候補者を集めて実施することにしました。国際公募というと、最近はどこでもやっているようにいわれますが、本当にそうなっているかというと疑問もあります。学内の先生が自身の知人・友人などに声をかけることも多いと聞きます。それではだめなんです。私は就任以来「自分より優れた人材を採用する」と言ってきました。だから、国際公募も、採用する教員の学問領域の国際学会に募集を出すことにしました。世界水準の教員を集めることが大事だからです。

 米ハーバード大も同様に「世界のベストのブレーン(頭脳)」を集めるといっています。それは我々には容易ではないから、「自分より優れた人材」と言っているのです。

その一方で、5つの教育基盤整備改革に力を入れてきたそうですね。「日本語の論理的発信力を養う」「英語の発話と論理的文章を書く」「数学的論理思考を学ぶ」「データ科学入門」「情報科学入門」です。文系でも数学やデータ科学を学ぶなど独特ですね。

田中氏:早稲田は2000年にオープン教育センターという組織をつくっていました。これは全学共通の科目を提供する組織でした。それまで学部の垣根が非常に高かったのですが、壊したのです。

 私が教務担当理事だった2013年から14年にかけてさらに改革しました。オープン教育センターは、単に共通の選択科目が取れるというだけでしたが、もっと体系的に整え直したのです。基盤教育の5つは、その柱です。

文系学生も数学、データ科学、統計学を学ぶ

全学生がこれら5つを学ぶことになぜこだわったのですか。また、その成果はいかがでしょうか。

田中氏:例えば「日本語の論理的発信力を養う」についていうと、日本の高校までの文章教育は、自分の感情などをどう書くかという感想文の課題が多い。でも、ビジネスの世界は感情ばかり書いていては仕事になりません。だから論理的に書く訓練を採り入れたのです。

 米英の一流大学は1年次に英語のライティングを必修にしています。米エール大学の教務担当をやったことのある教授で、現在早稲田の学外理事も兼務していただいている方に聞いたのですが、高校時代にどんなに優秀で文章がうまい学生でも(エール大では)区別なく論理的文章の書き方を必修にしているそうです。早稲田では、同じことを17年4月から英語でも始めました。

 成果は非常に上がっていると思いますよ。例えば、数学の論理的な推論は法学部の学生にとって、論理構築に役立ちます。データ科学については、19年7月の参議院選挙のとき、政党別の議席数を予測するコンペをやりました。学生から43チームが参加し、うち11チームは理工系のみで、残りは政経学部や商学部の学生などのチームでした。