全3388文字

新型コロナウイルス感染の拡大により臨時休校が長期化したことで検討課題として急浮上した「秋入学」構想。全国知事会が緊急提言し、政府も6月初旬までに論点や課題を整理する方向で動いている。入学や始業時期を約半年遅らせれば、4~5月の休校で学習機会が失われた問題を解消できるとの期待があるが、課題も多く、世論を巻き込む論争となっている。

(写真=アフロ)

 世界では約7割の国・地域が9月を新学期に定めている。今、日本で議論されている秋入学構想は、休校による学習の遅れを取り戻すとともに、“国際標準”に足並みをそろえられるとの利点が強調されている。ただ、同時に就職や国家試験の時期を見直さなければならないなど、実施には大掛かりな制度変更が必要なのは必至だ。

家計全体で計3兆9000億円の負担増が発生

 仮に2021年9月から導入した場合、20年度の1学年が17カ月となるため、費用面での負担増を懸念する声も出始めた。文部科学省は入学・始業を5カ月遅らせると、家計全体で計3兆9000億円の負担増が発生すると試算。日本教育学会は新たに確保しなければならない施設や教職員のコストが少なくとも6兆円かかると見積もっている。

 日経ビジネスの読者が議論する「Raise」で9月入学の賛否を聞いたところ、賛成が約47%、反対が約43%、どちらでもないが約9%となり、賛成と反対が拮抗する結果となった。

>>関連記事 拮抗する「9月入学」の賛否 「賛成」でも慎重な議論を求む声

 そんな中、過去に秋入学を検討したことがあるとして、引き合いに出されることが増えたのが東京大学の事例だ。結果的に東大は秋入学移行を見送ったが、2011年から足掛け2年余りにわたり、東大でなされた議論は、現在の9月入学論争に「代替案を模索する」視点が欠けていることに気づかされる。

 当時、東大が秋入学を提起したのは、日本の大学が、社会・経済の急速なグローバル化に取り残されているという危機感からだった。このままでは社会が必要とする人材の育成にも応えられないし、何より大学の国際競争力も落ちる。とりわけ国際競争力においては英教育専門誌タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「THE世界大学ランキング」で、日本を代表する東大は36位(20年)と、欧米のみならず、中国やシンガポールの主要大学の後塵を拝している。

 このランキングは「教育」「研究」「論文引用」「産学連携」「国際」の5分野の項目における評価を点数化して出されるが、東大は「国際」の評価が特に低い。英語が母語でないため、ある程度は致し方ないものの、ランクアップには留学生や外国人教員の比率上昇が必要不可欠とされている。東大の修士・博士課程における留学生比率は24%で、英語での授業も一般的になっている。だが学部になると同比率はわずか3.1%で、20~30%が当たり前の海外一流大学との差は大きく開いている。外国人教員比率でも欧米の主要大学に比べると低い水準にとどまる。

 キャンパス内での国際化が進まなければ、研究の国際化も当然進まないだろう。英語で書かれた論文の数も減り、研究の場における日本人研究者の存在感も薄れる。

 東大内でもこうした「内向き志向」は危機感を持って語られ、以前から検討課題としてたびたび上げられていた。そのため2010年3月、当時の濱田純一・第29代総長が東大の運営指針「行動シナリオ」に大学のグローバル化を目標に盛り込む。東大の目指す学生像である「よりグローバルに、よりタフに」を実現するために、改革を実行するとしたのだ。そして具体的な中身が11年7月に公表された。その目玉が「学部段階の秋入学への全面移行」と、「4月から約半年間のギャップタームの設定」だった。