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 ソフトバンクやダイキン工業、米IBM――。東京大学が相次いで国内外の大手企業との産学連携を発表している。背景にあるのは、国からの運営費交付金が限られ、国も財政赤字という問題を抱える中で「自ら『経営体』にならなければならない」との危機感だ。東大トップの総長自らが何度も産学連携の交渉の場に立って話をまとめる姿は、あたかも企業トップのようでもある。そこにはかつての大学のイメージはない。「東大は本気だ」。東大は産業界が持つ大学のイメージを打ち破ろうとしている。

 「先生、ソフトバンクやヤフーのデータも利用して、AIで新型コロナウイルスの感染者の推移を予測するデータ分析はできないでしょうか」

 新型コロナウイルスの感染が全国に拡大していた4月。ソフトバンクの担当者は連日のように、パソコンの画面越しに映る東京大学の教員らと、AI(人工知能)関連の新しい技術開発について打ち合わせをしていた。ソフトバンクと東大は2019年12月、10年間で200億円規模の共同研究を始めると発表。その共同研究を今年度から本格的に始めるにあたって、まさに両者が準備を進めている。

2019年12月、AI開発に関する研究所の共同開設を発表するソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左)と東大の五神真総長(写真:共同通信)

米IBM、台湾TSMCとの連携も相次ぎ発表

 近年、活発化する産学共同研究。なかでも大手企業との連携を相次いで打ち出しているのが東大だ。とくに19年11~12月は2カ月の間に、ソフトバンク、米IBM、半導体受託生産の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)との連携を次々と発表し、産業界や学術界を驚かせた。このほかにも、日立製作所やダイキン工業などとも大規模な共同研究を進めている。東大が国内外の大企業との産学連携を次々と打ち出している。

 根底にあるのが、教育・研究活動に必要な基盤的経費となってきた国からの運営費交付金が減少し、さらに国も財政赤字という問題を抱える中で、「大学自らが『経営体』にならなければならない」との東大の危機感だ。国立大学は04年に法人化されたが、多くの大学は現在も国からの資金に頼っている現実がある。今後、国からの資金の増加が見込みにくい状況で、東大が打ち出す産学共同研究には、自ら資金を生み出していく道を選んだ覚悟が見える。

 東大とソフトバンクの連携では、最先端のAI技術開発を見越した「Beyond AI 研究所」を設立する計画だ。両者から約150人の研究者やスタッフが集結し、中長期の研究に加えて、事業化につなぐ短期的な技術開発に取り組む。ポイントは、事業化後に出てくる配当や株式上場益を企業側だけでなく大学側にも還元させる点だ。

 適用するのが、20年4月に経済産業省がガイドラインを改訂したばかりのCIP(Collaborative Innovation Partnership)と呼ばれる制度。「技術研究組合」制度という名称で以前からあったもので、大学と企業で会社を設立する際の前段階となる組織をつくることができるという内容だ。

 だが、これまで同制度によって会社に組織改編される事例はまれで、大学が株式を持った例は1件もなかった。そこで、ソフトバンクとの連携も見越した東大が、認知度向上を見越した改称などを国に働きかけてきた。19年4月には、政府の未来投資会議の会合で、五神総長が、技術研究組合制度の充実や活用促進に向けた改称を提言し、布石も打っていた。

 改訂では、具体的には、組織設立時、大学が資金を出していなくても、大学から人材やノウハウの提供があれば、それはコスト負担と同等とみなし、会社設立時にそれらの貢献度を反映させて株主になれる点などを明確化した。経産省は「ソフトバンクと東大による会社ができれば、CIP制度によって国内で初めて大学が株式を持つケースとなる」とする。