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大学に関してはビジネス界からも様々な意見が出ている。「日本の大学はガバナンス(組織統治)が不全に陥っている」と主張するオリックスの宮内義彦シニア・チェアマンもその1人だ。同社の社長だった1990年代後半、宮内氏は執行役員制度や社外取締役制度を導入するなど、日本企業としていち早くガバナンスの仕組みを整えてきた。その宮内氏の目には現在の大学ガバナンスには何が欠けていると映るのか。問題意識を聞いた。(聞き手は本誌・吉野次郎)

日本の大学については経済界から様々な不満の声が上がっています。宮内さんはどこに問題があると考えているのでしょう。

宮内義彦(みやうち・よしひこ)氏
1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。70年取締役、80年代表取締役社長・グループCEO(最高経営責任者)、2000年代表取締役会長・グループCEO。14年から現職。政府の総合規制改革会議議長や経済同友会副代表幹事なども務めた。(写真:的野弘路)

オリックスの宮内義彦シニア・チェアマン(以下、宮内氏):教育機関としての大学の存在目的は、言うまでもなく「学生により良い教育を提供する」ことです。しかし、日本の大学は残念ながらその目的を効率的に達成するためのガバナンスが欠如しています。

 最も大きな問題は学長の選び方にあります。米国の大学は、学長選考委員会が全米から候補者を選び出し、理事会で学長を任命するのが一般的です。

 これに対して日本の私立大学は、教職員による投票で学長を選出することが認められています。国立大学は法律改正で2004年から「学長選考会議」が次期学長を選考することになりました。それでも依然として大半の国立大学で投票を実施して、教職員たちの意向を確認するなど、腰が据わっていません。

教職員におもねる学長

学長選びに教職員が関与すると、どのような不都合があるのですか?

宮内氏:学長に選ばれた人物は自分に票を投じてくれた教職員の“民意”に配慮する必要が出てきます。つまり教職員が反対するような施策を打ち出すのが困難となります。

 本来なら「より良い教育を提供する」ために、教職員が反対するような改革も断行せねばなりません。例えば、教員の待遇に格差を設けるといった施策です。米国の大学では優秀な教員の給料に高い報酬で報いたり、逆に怠けている教員の授業数を減らしたりして、教員同士が切磋琢磨(せっさたくま)するよう仕向けています。

 しかし日本の大学は基本的に教員に格差を設けません。教員にとってみれば、競争がない方が楽ですからね。

 どんなにがんばっても、怠けている教員と待遇は同じです。その結果、「学生たちに素晴らしい教育を施そう」「一人前にして社会に送り出してやろう」という意識が希薄になっています。行き着くところが、大学の「楽園化」です。

楽園、ですか。

宮内氏:日本では身を入れて勉強しなかった学生も、卒業が許されるのが一般的です。そのため大学に入学することが、学生たちの最大の目的になっています。入試に合格した時点で、大卒というブランドがほぼ確実に手に入りますから、受験勉強に励んだ学生も入学後は勉強しなくなります。大学は4年間を楽しく過ごす楽園のような場所になってしまっています。

 欧米の大学はそうはいきません。勉強しない学生は退学となり、卒業させてもらえないのが一般的です。日本の大学も、学生たちを勉強に駆り立てる仕組みを整えないといけません。

いまだに20世紀型の採用活動を続ける企業も問題

企業も新卒採用時に就活生が大学でどんな専門性を身に付けたのか、成績はどうだったのか、あまり気にしないのも、大学生が勉強しない一因になっているのではないでしょうか。