「円安富国論」が揺らいでいる。円安で輸出企業の業績が改善し、経済は上向くという日本で信じられてきた通説に対し、アベノミクスが招いた円安は経済の好循環を生まなかった。物価と賃金は低迷し、逆に円安で輸入物価が上がったことで、日本の購買力低下が目立ち始めた。輸出立国・日本の繁栄を支えた勝利のシナリオが機能しなくなったのは、なぜなのか。
前回記事はこちら「魅力ない賃金、離れる人材 ベトナム人技術者の視界から消えた日本」
「日本国の経済が立ち直り、国民の努力が認められることだから、良いことではないか」
ニクソン・ショックが起きた1971年、日本円を1ドル=360円から308円に切り上げることが決まった。そのことを報告した閣僚に昭和天皇が述べられた言葉と伝えられている。

本来、輸入価格を相対的に引き下げる円高は「消費者にとって良いことしかない」(大正大学の小峰隆夫教授)。しかし、85年のプラザ合意、90年代のバブル崩壊、2008年のリーマン・ショックと、急激な円高が日本経済を痛めつけたことが経済界にとってトラウマとなった。特にリーマン・ショックは韓国や台湾勢に押された電機業界が壊滅状態に追い込まれ、円高の負のイメージを植え付けた。
流れを変えたのが、安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」だった。13年に始まった日本銀行による大規模な金融緩和は円安を誘い、株高を招いた。円安富国論が機能したかに思われた。
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