経済が停滞し、賃金が伸びない日本。「安定」という居心地の良さを見いだす人々がいる一方で、経済的な成功を求めて、日本を離れていく人も後を絶たない。日本を去った、ある優秀なベトナム人エンジニアの言葉が重く響く。

 前回記事は「iPhoneが高根の花に 物価上がらぬ日本、モノもヒトも『買い負け』

 「夢のようなオファーをもらった」。ベトナムの最大都市ホーチミンで、エンジニアとして働くクオンさん(27歳)の声は弾んでいた。2022年1月に英国に渡り、大手IT(情報技術)企業に就職する。提示された月収は約5400ポンド(約81万円)。現在は23万円弱なので、一気に3倍以上に膨らむ計算だ。

 クオンさんは3年前まで東京都内のITベンチャー企業で働いていた。ベトナムの理系大学を卒業後、日本語学校の留学生として来日。週28時間以内のアルバイトが認められ、エンジニアとしての技術を磨いた。クオンさんは「社を挙げたプロジェクトの中心チームにも加えてもらい、やりがいがあった」と語る。

 仕事が気に入ったクオンさんは日本語学校をやめ、アルバイト先に就職した。雇った社長も「日本人の社員4~5人分の業務を簡単にこなすほど優秀だった」と振り返る。

ベトナムと収入に大差なく

 ただ、残業を目いっぱいしても月収は20万円をわずかに超える程度。近年は、ホーチミンや首都ハノイの経済発展が著しく、日本とベトナムで収入に大きな差はない。クオンさんにとって、慣れ親しんだ母国に帰るのは自然な流れだった。

経済発展が進むベトナム・ホーチミン市のマンション群(写真:AFP/アフロ)
経済発展が進むベトナム・ホーチミン市のマンション群(写真:AFP/アフロ)

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り4029文字 / 全文4702文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「インダストリー羅針盤」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。