窮乏化政策はもう限界

 次から次へと押し寄せるコストアップの波にどう対処するか。瀬戸氏は値上げを決断する。21年は4月にユニットバスやトイレ、キッチンのメーカー希望小売価格を最大で15%上げた。そして12月7日に、22年4月以降受注分のユニットバス、トイレ、キッチンの値上げを発表する(ユニットバスの一部は12月に実施)。今回の値上げ幅は最大で40%近い商品もある。

 これだけLIXILが価格転嫁できるのは、日本に住宅設備機器や建材を手掛けるメーカーが少ないからだとの見方もあるだろう。しかし瀬戸氏は、質の高い商品を安定供給する代わりに、その対価を消費者から受け取ることが、ビジネスの本来の原則だと考える。

 「(経済活動の)最終目的はみんな、もしくは日本という共同体が幸せになるということ。最終的には賃金を上げなくてはならない。だが、コスト削減ばかり考えていると上げられない。そういう『窮乏化政策』ではなくて、価値のあるモノを作って価値のあるモノを買える人を増やさないといけない」。瀬戸氏はこう訴える。

 どれだけの企業経営者が瀬戸氏の訴えに耳を貸すだろうか。瀬戸氏も認めるが、多くの日本企業にとって安値でシェアを大きくして成長するという事業モデルが典型的な成功の原体験だ。高い値段でモノを売って利益を創出するというより、安く作って利益を捻出するというイメージだ。

負のスパイラル

 日本企業の安売り志向はデータにも表れている。企業が製造コストの何倍の価格で販売できているかを測る「マークアップ率」を国際比較した18年の国際通貨基金(IMF)の論文によると、1990年以降、日本企業のマークアップ率は米国や欧州を一貫して下回る。景況感が改善したアベノミクスの間ですら1.1倍前後と、米国の約1.6倍や欧州の約1.3倍より低かった。

 そうした企業行動が積み重なって生まれたのが“貧しいニッポン”だ。日本人の賃金は過去20年ほとんど上がっていない。経済協力開発機構(OECD)の統計によると、物価水準を加味した購買力平価ベースで見た日本の平均賃金(年額)は20年時点で3万8514ドル(約435万円)。00年の3万8364ドルから、わずか0.4%という伸び率だ。

 米国や韓国では同じ20年間でそれぞれ賃金が25.3%、43.5%上昇している。「企業収益が低迷→増えない賃金→消費の冷え込み→企業が値上げを躊躇(ちゅうちょ)」。日本では、この負のスパイラルが回り続けた。

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 賃金と並行して物価も上がらないため、国内での日常生活では貧しくなっていると実感することはあまりない。このことが人々の問題認識を遅らせてしまった。

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