投資家からも支持されるクボタのスマート農業だが、農家にとことん寄り添う企業風土が推進力の源泉だ。営業担当者はもちろん、開発部隊も農家の水田や畑で実証実験を重ねて、ニーズに応える製品を生み出す。今年からスタートした農機のシェアリングサービスは新規就農支援が狙い。農業の現場のあらゆる困りごとに手を差し伸べ、国内市場を耕す。

 クボタがスマート農業を推し進める上での強みが農家との接点の多さだ。売上高でみた国内の事業規模はヤンマーホールディングス(非上場)の3875億円や井関農機の1159億円を圧倒。国内に13社の販売会社を抱え、営業拠点は約800カ所に達する。

 農家との付き合いは濃密だ。約220ヘクタールの耕作地でコメや小麦、大豆を生産するアグリ知立(愛知県知立市)の高村昭広社長は、クボタの販売会社の営業担当者を「うちのメカニック」と呼ぶ。

 アグリ知立のメカニックこと、東海近畿クボタ安城営業所の五十嵐貢所長は、ほぼ毎日、有力顧客であるアグリ知立を訪れ、農機の故障に対処したり、トラクターでけん引して使用する作業機械の改良の相談に乗ったりする。繁忙期には農機の運搬を請け負うこともある。

 2021年は新型コロナウイルス禍に伴う需要の落ち込みで、各地の農家は歴史的な米価の低迷にあえいでいるが、東海近畿クボタでは以前から、農業協同組合(JA)よりも高い価格でのコメの買い取りもしている。農機の保守・整備から日々の作業の手伝い、販路の確保まで至れり尽くせりの対応だ。

開発者、田植え前線を追って北上

 農家にとことん寄り添う姿勢は開発現場にも浸透している。象徴的なケースがGPS(全地球測位システム)を活用した直進維持機能付き田植え機の開発だ。

 きっかけは北海道の販売会社からの連絡だった。「お客さんが自動操縦の田植え機を自前で作ったらしい」。移植機技術部で管理チーム長を務める吉田和正氏が訪問先で目にしたのは、海外製のGPSと連動する制御装置を取り付けた改造田植え機だった。

 当時は海外に比べて耕地面積が狭い国内では、直進制御機能はさほど需要がないとみていた。しかし、「何とかこれを製品化してほしい」との直談判を受けて、吉田氏は考えを改めた。

直進維持機能が好評でヒット商品となった田植え機(写真:菅野勝男)
直進維持機能が好評でヒット商品となった田植え機(写真:菅野勝男)

 13年に先行研究に着手すると、実際に全国の顧客の水田を借りて実証実験を繰り返した。1月末の沖縄県の石垣島にはじまって5月中旬の北海道まで田植え前線が北上するのを追いかけた。「農閑期には協力農家の方がわざわざ田んぼに水を張ってくれたこともあった」と、当時を振り返る。

 こうして発売までに200人以上の農家に実際に操縦してもらい、改良を重ねた直進維持機能付き田植え機は大ヒット。初心者でもぬかるんだ水田を真っすぐに進めるとして、家業を継ぐにあたってこの田植え機の購入を条件にする後継者もいるほどだ。

 研究室を飛び出して農家に極めて近いところで、文字通り土と泥にまみれながら製品開発に取り組むのがクボタ流だ。しかし、いかに優れた農機を世に送り出しても、そればかりでは市場の将来が見通せないほど、日本の農業の現状は厳しい。

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