資源高などを受け、電気自動車(EV)用蓄電池に必要なレアメタル(希少金属)の調達環境が不安定になっている。天然資源に代わる都市鉱山として注目を浴びるのが、使用済みの蓄電池だ。非鉄・リサイクル各社ともEV普及期に入る2030年に照準を定め、リサイクル技術の実用化を目指す。

 秋田県大館市にあるDOWAエコシステム(東京・千代田)の廃棄物処理施設。建物の中では、高さ6mほどの焼却用加熱炉2基が「ゴーゴーゴーゴー」と重低音を響かせて稼働していた。同社は非鉄大手DOWAホールディングスの子会社で、グループ内の環境・リサイクル事業を担っている。

DOWAエコシステムの大型加熱炉
DOWAエコシステムの大型加熱炉

 加熱炉が停止し、フォークリフトで炉から運ばれてきた箱の中には、骨組みがむき出しとなった黒っぽい塊があった。焼却された、電気自動車(EV)用の使用済みリチウムイオン電池だった。

 この電池はその後、破砕機で粉々にされ、選別作業を経て黒い粉になっていく。この粉は「ブラックマス」と呼ばれ、ニッケルやコバルト、リチウムなどリチウムイオン電池に使われるレアメタル(希少金属)が多く含まれる。同電池にはいくつかの種類があるが、これらのレアメタルを使用する「三元系」の電池は、発熱量が少ないなど安全性が高く、EV用に適しているとされる。

炉で焼却される使用済み蓄電池(上)。焼却後に破砕・選別されたブラックマスと呼ばれる黒い粉(左)が、レアメタルのリサイクル原料となる
炉で焼却される使用済み蓄電池(上)。焼却後に破砕・選別されたブラックマスと呼ばれる黒い粉(左)が、レアメタルのリサイクル原料となる

 DOWAエコシステムでは今、このブラックマスの引き合いが増えている。「2021年以降、金属精錬メーカーからの問い合わせが急に増え始め、海外企業からも少なくない」と同社ウエステック事業部の佐藤省吾副部長は話す。

 天然鉱山ではなく、家電などにいったん加工された金属を資源に見立てる「都市鉱山」という考え方は、以前からあった。使用済みの電子基板や金属端材などから金や銀、銅などを取り出して再利用する動きで、これまではパソコンや携帯電話機など比較的小型の家電が中心だった。

 だが、ここ数年は将来的な市場拡大を見越して、EVの主要部材をリサイクルする取り組みが急拡大している。その代表格がリチウムイオン電池などの蓄電池で、都市鉱山の本命へと急浮上してきた。

レアメタルの安定供給の確保が急務に

 背景にあるのが、経済安全保障の観点から安定供給の確保が急務になっていることだ。蓄電池に使われるレアメタルは、天然資源の生産国に偏りが大きい。米地質調査所によると、リチウムの世界生産量(米国を除く)のうち、オーストラリアとチリ、中国の上位3カ国で全体の90%を占める。ニッケルはインドネシア、フィリピン、ロシアが55%、コバルトはコンゴ民主共和国とロシア、豪州が79%をそれぞれ占めている。

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 見逃せないのが、ロシアがニッケルとコバルトで、中国がリチウムで生産量上位3カ国に入っていることだ。両国は資源を自国で囲い込みつつ、外交のカードとして使う姿勢を強めており、世界的な供給不安をいつ引き起こしても不思議はない。こうした資源ナショナリズムは今後、さらに強まるとの見方もある。

 事実、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻によって、供給不安からレアメタルの価格が軒並み上昇した。11月上旬現在では上昇が一服しているものの、価格水準は依然として高めだ。ロンドン金属取引所でのスポット価格は、コバルトで1トン当たり5万ドル台と19~20年と比べると1.5倍程度高い。ニッケルも17年前後からじわじわ上がり、現在は5年前の2倍程度の水準。EVのワイヤハーネスなどに使う銅も、新型コロナウイルス禍が起きた後の急騰局面ほどではないものの、1トン当たり7000ドル台と高値圏だ。

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