半導体シリコンウエハー世界大手のSUMCOが国内外で3300億円を超える大規模投資に打って出る。半導体メーカーからの増産要請に安易に乗ったわけではない。主要顧客との粘り腰の交渉で値上げと長期の取引契約を勝ち取り、早期に投資回収できるメドを立てたうえで、投資判断を下した。過去に「シリコンサイクル」に翻弄され、過剰投資から経営破綻寸前に追い込まれた苦い経験を踏まえ、着実に収益を刈り取る姿勢を貫いた。

 SUMCOは佐賀県伊万里市の工場に直径300ミリメートルのウエハーを手掛ける新たな生産棟を建設。長崎県大村市でも子会社の生産設備を増強する。さらに、半導体受託製造会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)などが集積する台湾に約1100億円を投じ、新工場を設ける。(前回記事は『SUMCO、台湾に1100億円新工場 TSMCなどに半導体ウエハー供給』)

 初志貫徹だった。モバイル機器の市場拡大やIoT(モノのインターネット)の進展、データセンターの急増などで5年以上前から半導体需要が盛り上がるなかでも、SUMCOの橋本真幸会長兼最高経営責任者(CEO)は大規模増強への誘惑にはかられなかった。そして、社内外でこう唱え続けた。「値上げが実現するまでウエハーのグリーンフィールド(工場新設)投資には動かない」

橋本CEOの粘り勝ち

 半導体市場が活況になり、シリコンウエハーの需要がマグマのようにたまり続けるなか、2021年に入り、ついに顧客の大手半導体メーカーからは「大量に取引できるのなら値上げを受け入れる」との声が上がり始めた。SUMCOの営業チームは21年前半、交渉を有利に進め、値上げを勝ち取った。橋本CEOの粘り勝ちともいえる。

世界的な半導体不足を背景にシリコンウエハーへの引き合いは強い(写真:picture alliance/アフロ)
世界的な半導体不足を背景にシリコンウエハーへの引き合いは強い(写真:picture alliance/アフロ)

 SUMCOは値上げ幅を明らかにしていないが、日経ビジネスの推計や関係者の話を総合すると、22年から3年かけて年10%程度ずつ価格を引き上げていくとみられる。顧客によって上げ幅は違うようだが、SUMCOにとって収益拡大に直結することは間違いない。

 量の確保にこだわる半導体メーカーの求めに応じて、23年までの契約をさらに更新延長し26年までとしたり、新規に長期契約したりして今後5年分の受注を確保。設備増強に投じる資金を26年をメドに回収できる見通しが立った。

 大規模投資にここまで慎重だったのはシリコンサイクルに踊った過去の悪夢だ。

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