三菱重工業が小型ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」の事業を凍結する方向で最終調整に入った。10月30日に予定する事業計画の説明会で方針を示す。新型コロナウイルス感染拡大で航空機需要が激減し、90席クラスの認証を取っても販売先を確保できないと判断した。背景には、36年ぶりの安値水準にまで落ち込んでいる株価がある。

認証取得が取れたとしても機体の量産はしばらく見送る
認証取得が取れたとしても機体の量産はしばらく見送る

 「航空機需要は消えた。このタイミングで何も説明しないわけにはいかない」 「認証作業はあきらめていないが量産をしないなら、撤退より凍結がいいのではないか」。三菱重工は30日に中期経営計画の発表を予定している。そこでジェット旅客機の今後について方針を明らかにする。社内ではどう説明するのが適切か議論が続いている。

 顧客である航空会社の経営は今、スペースジェットどころではなく、国産旅客機に挑戦する旗にはかつてない逆風が吹きつける。表現ぶりはともかく事業として成り立たないことは確かだ。機体の安全性を国が証明する「型式証明(TC)」の取得を目指している90席クラスのジェット旅客機について、当面は機体の試験飛行をできないと判断。事務作業を続けて認証取得は引き続き目指すが、仮に数年内に取れたとしても、しばらく機体の量産は見送る公算が大きい。旅客機需要が投資回収を十分にできる水準にまで戻った場合、事業凍結を解除して量産に入れるかを検討する。

 プロペラ機の「YS―11」以来、半世紀ぶりの国産旅客機としてスペースジェットへの期待は高かったが、時間がかかりすぎた。量産初号機の納入を6度も延期し、当初目指した13年からすでに7年が経過した。これは完成機メーカーとしてのノウハウに乏しく、TCを取得できなかったためだ。同社はジェット旅客機向けの構造部品では豊富な実績を持つ。しかし、機体全体の設計から開発、生産、安全確保までを指揮するとりまとめ役の「インテグレーター」としての蓄積はほとんどない。にもかかわらず、見通しが甘いままTC取得、事業化の道を突き進んだのが大きな過ちだった。

 将来キャッシュフローを稼げる見通しが立たないため、2020年3月期にはスペースジェット事業で関連資産を減損処理し、開発費も含めて約2600億円の損失を計上した。21年3月期からスペースジェットの開発費を大幅に減らし、70席規模の開発をやめ、傘下の三菱航空機(愛知県豊山町)は人員半減、北米の拠点縮小など開発体制を大きく見直していた。それでも今期は1000億円超の費用がかかり、累計の費用はおよそ1兆円に達するとみられる。

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