日本製鉄は東南アジアを軸に海外鉄鋼会社のM&A(合併・買収)を検討する。新型コロナウイルス収束後は自国産化や保護主義による「市場の分断」がさらに進むと想定。現地鉄鋼メーカーに資本参加して現地生産化する同社の「インサイダー戦略」に再び乗り出す。

日本製鉄の橋本英二社長は海外M&Aに意欲を示した
日本製鉄の橋本英二社長は海外M&Aに意欲を示した

 「インドは間違いなく需要が伸びる。西部臨海地域の製鉄所を買ってインサイダー化したので、もう1つ、2つ東海岸で絵を描ける」。日鉄の橋本英二社長は1日の記者会見で、業績不振の霧の中で見つけた一筋の光明とばかりにインド事業の伸びしろの大きさを強調した。

 日鉄と世界鉄鋼最大手のアルセロール・ミタルとが2019年に共同買収した現地の鉄鋼メーカー、AM/NSインディア(旧エッサール・スチール)のことで、20年4~6月期のEBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は黒字となり、足元で業績は底堅い。

インド・グジャラート州のAM/NSインディアのハジラ製鉄所
インド・グジャラート州のAM/NSインディアのハジラ製鉄所

 同社の最大の経営課題は国内製鉄事業の立て直しだ。需要縮小に合わせて生産体制をスリムにしてコスト競争力を高める。そのうえで、8月20日の記事「日本製鉄、電磁鋼板に『チャイナショック』の試練」で書いたように、電磁鋼板など高級鋼材に生産をシフトする。

 橋本社長は「今の注文構成では国内の鉄鋼事業は黒字にならない。中国のコストがマージンを決める低採算品は生産を減らす。一方、電力や電気自動車(EV)向け電磁鋼板は高い価格が見込めるため大きな投資をしている」と国内製鉄事業の方針を明らかにした。ただ、国内市場を中国製鋼材の攻勢から守れたとしても、限られたパイの中で高い利益成長が見込めるわけではない。

 縮小均衡の国内市場に比べて、海外市場には成長余地がある。日鉄はそこにM&Aで打って出る。

新興国で現地メーカーを育成する動き

 新興国は鉄鋼の需要が増える初期段階では輸入に依存する。その後、経済発展に伴って鉄鋼メーカーを育てる国産化が強まる。近年では米中貿易摩擦に刺激を受けて世界的に保護主義が強まり、新興国で現地メーカーを育成する流れが加速している。

 日鉄をはじめ、国内鉄鋼メーカーは日本の製鉄所で生産した母材を輸出して現地工場で加工し、鋼材製品を主に日系メーカーの顧客に納めてきた。しかし近年ではこの輸出戦略が通用しなくなってきた。中国や韓国というライバル勢が輸出競争力をつけた上、新興国が現地メーカーを守るため関税引き上げなど保護貿易の政策をとり始めたからだ。

 そこで日鉄は数年来、需要地で鉄源からの一貫生産拠点を構えて各地の需要拡大を取り込む「インサイダー戦略」を掲げてきた。国内製鉄事業の延長線上での海外進出ではなく、上工程から現地生産に踏み切る点がこれまでと異なる。橋本社長は「コロナ後はますます市場の分断、地産地消、保護主義が進む。(現地生産化の)戦略は間違っておらず、海外事業をさらに進化する」とファイティングポーズをとった。

「ブラウンフィールド」型の投資

 ただ、何もない土地に製鉄所を立ち上げて顧客も探す「グリーンフィールド」型投資は費用面でのリスクが大きい。狙うのは既存設備を有効に使えて、顧客もすでにいる「ブラウンフィールド」型の投資だ。

 インドの旧エッサール買収に関する資金拠出額は5000億ルピー(当時で7700億円)で、出資比率40%の日鉄の負担は約3000億円と巨額だ。しかしインド全体の年間粗鋼生産量の約1割に相当する約1000万トンの粗鋼生産能力が手に入った。更地から製鉄所を建設するには1兆円規模の投資費用がかかるが、既存設備を生かして改修や拡張投資が可能になる。

 時間を買う効果もある。「グリーンフィールドの一貫製鉄所の建設は5年かかる。大量の従業員を採用して教育し、販売先を確保しなければならない。鉄鋼の生産能力は世界的に余剰なので新規の立ち上げは難しい。インドはエッサールを買収し、実力で黒字基調を保っている。立ち上げのリスクを回避するために、海外展開は基本的にM&Aで進めようと考えている」と橋本社長は語る。

「アセアン対策は一つのキーになる」

 M&Aの対象は東南アジアが有力なようだ。

 鉄鋼は世界的にローカル色が強い産業で、日鉄によれば上位10位メーカーによる集約度(シェア合計)は自動車が販売台数ベースで約80%、半導体は売上高ベースで60%と多くを占めるのに対して、鉄鋼は粗鋼生産量ベースで約30%と低い。それぞれの国や地域で地場メーカーが鉄鋼製品を供給する役割を果たしている。

 東南アジアの地場メーカーの中には技術力不足、経営ノウハウに乏しいメーカーも少なくなく、そうした会社を支援するために外国資本の鉄鋼メーカーの参画を求める場合がある。

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