業績貢献度も高い。21年3月期は味の素の事業利益1131億円のうち、調味料・食品が867億円と全体の77%を稼いだが、ABFが主軸の電子材料を含むヘルスケア等が262億円と23%を占めた。中核の調味料・食品、冷凍食品の好調さに加えてABFという成長事業を持つバランスの良さが評価され、味の素の株価は約3300円、予想PER(株価収益率)は約30倍で推移し、9月2日には過去10年での高値を付けた。

アミノ酸技術の応用から電子材料事業が生まれた

味の素ファインテクノが手掛ける層間絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」
味の素ファインテクノが手掛ける層間絶縁材料「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」

 では、どうして食品メーカーが半導体材料を手掛けているのか。うま味調味料味の主成分であるグルタミン酸ナトリウムは現在、さとうきびなどを使った発酵法によって製造しているが、1960年代には合成法によって製造していた時期があった。その中間体の有効利用のためエポキシ樹脂の硬化剤を開発するなど、副生成物や技術を活用しようとして味の素の電子材料事業は始まった経緯がある。エポキシ樹脂の技術を発展させて1999年にパソコン用半導体パッケージ基板の絶縁材料として誕生したのがABFだ。

 パソコンやサーバーの高性能半導体向け絶縁材に使われるABF。門外不出の原材料の配合技術が「おいしさ」の決め手だ。

 1990年代、パソコンの普及のため半導体関連の様々な部材にも性能向上が求められるようになった。絶縁層上に微細な銅回路形成が求められる中、それまで絶縁材料に用いられてきたインキは数多くの課題を抱えていた。インキは印刷と乾燥を繰り返すため工程数が多い。表面の平滑性が悪いためでこぼこになりやすく、配線間に気泡も残りやすかった。付着ゴミ、溶剤の臭気も製造現場で問題になっていた。当時、こうした課題解消のためフィルム化に様々な素材メーカーが挑んだが、実現は困難とみなされていた。そこに後発メーカーの味の素が開発に乗り出し、卓越した樹脂配合技術によって実現にこぎ着けた。

 フィルム化の効果は抜群で、液状樹脂よりも取り扱いが驚くほど容易になった。基板を上下のフィルムで真空ラミネート方式によって挟み込む。つまりフィルムを貼り付けるだけなので工程数が減る。表面も平滑になり、上部に配線の積み上げがしやすくなった。ABFの導入で、表面への銅メッキとレーザーの穴開け加工によって多層に電子回路が接続する構造のプリント基板を作成できるようになった。そこから四半世紀、絶縁材料の技術革新によって、MPUの高性能化を「土台」から支えてきた。

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