フロンテン工場では2020年9月から、世界に先駆けて5軸加工機のライン生産を開始。生産性は従来比で30%向上し、生産能力も年600台から1000台以上に増えた。フロンテン工場取締役で開発担当のアルフレッド・ガイスラー氏は「現状は1シフト制で1日に3台を完成させていたが、9月からは2シフト制にして倍増を目指す」と意気込む。
円滑なライン生産に向けて材料や部品の確保にも動いている。これまでは工場外に倉庫を借りていたが、工場に隣接して広さ8400平方メートルの物流センターを建設し、7月から運用を始めている。ガイスラー氏は「8種類の工作機械を、顧客の注文に応じながら1つのラインで生産するのは非常に複雑。サプライチェーンの安定は欠かせない」と話す。

実際、労働力不足を巡るドイツ企業の危機感は強い。フランス国境に近いザールランド州ズルツバッハに本社を構えるハイダックは、産業機械向けの油圧機器を製造する。22社あるグループ全体で1万人以上の従業員を抱える大手で、売上高は18億ユーロ(約2500億円)に上る。
4000本の工具を自動管理
同社の工場に足を踏み入れると、幅は間口いっぱい、高さは天井近くまで達する巨大な工作機械に圧倒された。油圧機器を生産するこの装置は全長33メートル、高さは5.2メートルに達する。作業員の姿はまばらだ。

ハイダックの製品が使われるのは、建設機械や農業機械、輸送用トラック、発電設備から洋上の石油・ガスプラント、船舶までと非常に多岐にわたる。生産技術部長のクリストフ・ロンプ氏は「顧客のニーズに応えて、どんな部品でもつくる。そこに我々の強みがある」と話す。
多種多様でロット数も様々な生産を支える工作機械を納入したのがDMG森精機だ。20年に導入したこの装置、圧巻なのはその2階部分にあって4000本もの工具を管理するストレージシステムだ。工具を自動的に出し入れするロボットがせわしなく動いている。3000種類を超えるワークに対応できるという。

この自動化装置では一部、保管庫から素材を取り出して、加工台に固定するところまで、ロボットが担う。ロンプ氏は「生産能力が大幅に向上し、作業員は他の仕事に時間を割けるようになった」と語る。DMG森精機の技術力が生きた。
手応えを感じたハイダックはDMG森精機に対し、同じ装置を中国工場向けにも発注済みだ。ロンプ氏によれば、中国のほかスロバキアやポーランドなど賃金水準が比較的低い国の生産拠点にも、ドイツと同様に最新鋭設備を導入しているという。背景にあるのは、人手を巡るシビアな感覚だ。ロンプ氏は「中国や東欧が10年後にも同じ賃金水準であるなんてことは考えられない」と話した。
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