現段階で目立った実績がないにもかかわらず、電池関係の技術者を約100人も抱える謎のスタートアップ企業がある。
7月上旬、横浜市神奈川区の港湾隣接地。倉庫や工場が立ち並ぶ地域にある施設の一角で、技術者たちが真新しい製造設備を稼働させる準備を進めていた。彼らが働くのは次世代電池スタートアップのスリーダム(横浜市)。15億円を投じて生産ラインを構築し、2021年秋にもリチウムイオン電池の主要部材であるセパレーター(絶縁材)の量産に乗り出す見通し。協業先の海外電池メーカーに生産委託する形で、22年からリチウムイオン電池を量産して顧客に車載電池などとして供給する計画だ。
スリーダムは首都大学東京(現東京都立大学)発ベンチャーとして14年に設立された。金村聖志教授(同社最高技術責任者)が長年をかけて研究開発した技術を中核に、次世代電池の事業化を目指している。

内部に「針」ができる課題に解決策
燃えにくく、寿命が長く、エネルギー密度が高い――。同社が目指すのは、既存のリチウムイオン電池の弱点を克服した3拍子そろったバッテリーだという。セパレーターの独自構造「三次元規則配列多孔構造」が実現のカギを握る。
電気自動車(EV)の性能向上のためには電池のエネルギー密度を高めることが欠かせない。そのため、現在は負極に一般的な炭素材ではなくリチウム金属を使用した電池の開発が世界中で進められている。
しかし、リチウム金属を用いると負極の表面に金属結晶「デンドライト」が針状に付着する問題が生じる。デンドライトがセパレーターを貫通して正極に触れてしまい、動作不良が起きやすくなるのが大きな技術的な壁になってきた。ショートした場合、発火の恐れがある。電池セル起因によるEV火災事故をどう防ぐのかという課題に、世界中の電池メーカーや自動車メーカーが頭を悩ませている。
スリーダムが生み出したのは、デンドライトの生成を抑えるセパレーター構造だ。セパレーターの孔(穴)を規則的に配列して、電流分布を均一にできた。デンドライトが発生しにくいため、結果的に電池内部のショートを防止できる。さらに、材料に使うのは耐熱樹脂のポリイミド。400℃にも耐えられるので燃えにくいという特長もある。一般的なセパレーターは耐熱温度が150~200℃程度のため、事故時に発火しやすい。

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