かつて音楽用カセットテープやビデオテープに用いられていた磁気テープ。後発のハードディスクドライブ(HDD)などにすっかり駆逐されたかと思いきや、コンピューター用の記憶媒体として現在も顧客を獲得し、米グーグルや米マイクロソフトも手放せない存在なのだという。世界シェア7割を持つ富士フイルムの工場を訪れ、令和の時代までしぶとく生き残った磁気テープの進化に迫った。
JR小田原駅から車で10分ほど、富士フイルムの神奈川事業場小田原サイトに足を踏み入れると、ガラスの向こうに「シャーシャー」という音を発しながら黒いテープが高速で一直線に流れていく様子が見える。
サンプルを触らせてもらっても、ほとんど厚みを感じない。このテープが複数の滑車を経由しながらぴんと張られて流れていく間に、磁性体の含まれた液を塗布し、磁性体の向きをそろえる作業を行い、そして乾燥させる。
別の場所では「スリット」という工程が行われていた。先ほどのテープを規格通りの幅に切る。テープが円状の刃に触れると、スルスルと切れていく。厳格な品質管理の下、こうして作られた磁気テープが世界に向けて出荷される。

富士フイルムの調べによると、2020年度のコンピューター向け磁気テープの出荷量(記憶容量ベース)は世界で50エクサ(1エクサは10億ギガ)バイト以上と、その10年前の約3倍になった。
なぜ、いま磁気テープなのか。それを探ってみると、11年に起きたある出来事にたどり着いた。
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