4月、8年ぶりにトップが交代した帝人。新たに社長兼CEO(最高経営責任者)に就いた内川哲茂氏は、入社から数年で当時としては異例の顧客企業への出向を経験したのを皮切りに、買収した海外企業との事業統合や国内工場閉鎖など数多くの厳しい現場で汗を流してきた。本流で成功体験を重ねるのではなく、傍流で試行錯誤を繰り返してきた苦労人が、素材を作って売るビジネスからの脱却を加速させようとしている。

内川哲茂(うちかわ・あきもと)氏
内川哲茂(うちかわ・あきもと)氏
1966年滋賀県草津市生まれ。90年に信州大学大学院を修了し、帝人に入る。繊維研究所、前田工繊出向、繊維事業本部繊維技術開発部門加工技術第2部などを経て、2003年にオランダのテイジン・トワロンB.V.に出向。14年高機能繊維事業本部生産・研究開発部門長、21年6月取締役常務執行役員マテリアル事業統轄、22年4月から現職。ご当地マンホール探しに凝っている。(写真=竹井俊晴)

入社5年目、顧客である前田工繊に出向されていますよね。

内川哲茂・帝人社長兼CEO(以下、内川氏):出向を命じられたときにはショックでしたね。当時は子会社への出向ですら片道切符。要は会社の中でキャリアを終えた人が、セカンドキャリアとして子会社に出向してもう戻ってこないという時代でした。そういう時代にグループ企業ですらないお客様のところに出向しろというのですから。

それでもそうした苦労や逆境が強みになっているという意識はありますか。

内川氏:命じられたときにはショックでしたが、出向はよい経験でした。当時はまだ繊維素材を土木や建設分野で使うといった例がなかったので、前田工繊では物を売るために設計段階から入って、施工指導までしていたんです。物を売るだけでなく、その前後があることで、その物の価値がすごく高まる。大きな発見でした。

 こうした経験をして、帰ってくると、プロダクトアウトからの脱却に苦しんでいる同僚から口々に、「いい経験を積ませてもらってよかったですね」と声をかけられました。素直にはうなずけませんでしたが、自分のやってきたことには価値があったんだと、ちょっと自信が付きました。

 2003年には買収したオランダ企業へ出向しましたが、小が大を飲むような買収でしたし、私は英語が不得手でもありました。今ふうにいう「ポスト・マージャー・インテグレーション」(買収成立後の事業統合)の仕事は相当しんどかった。

 今のようにスマートフォンでなんでも検索できる時代でもありませんでしたし。でも一仕事終えて帰ってきたら、その後会社のグローバル化が加速する中で、海外の会社の統合で苦労した経験があるということで評価されて、次の仕事をいただけることもあった。相当な苦労でしたけど、この2つの経験は大きな力になっています。

異例の顧客企業への出向経験があるからこそ見える、帝人の強みは何ですか。

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