新型コロナウイルス感染拡大を受けて、工場運営を見直す企業が増えている。横河電機は石油ガスや化学、紙パルプ、鉄鋼などプラント工場の制御を手掛ける。国内、中東、東南アジアや中国で4万件のプロジェクトを抱えるが、新型コロナウイルス感染拡大を受けて、プラントをリモート制御する需要が急増しているという。奈良寿社長は「人を介さない自律制御の時代へと移っていきそうだ」と語る。

<span class="fontBold">奈良寿(なら・ひとし)氏</span><br />横河電機社長。1963年秋田県生まれ。1985年横河北辰電機(現・横河電機)入社。ソリューション営業畑を歩み国内外に豊富な人脈を築く。2011年に取締役、19年4月から現職
奈良寿(なら・ひとし)氏
横河電機社長。1963年秋田県生まれ。1985年横河北辰電機(現・横河電機)入社。ソリューション営業畑を歩み国内外に豊富な人脈を築く。2011年に取締役、19年4月から現職

新型コロナ感染拡大を経て、顧客のニーズに変化はありますか。

奈良寿横河電機社長:企業の経営者何人かにオンラインで伺ったところ、感染症への対策はある程度は実施していたものの、国内で多い地震、洪水などの災害ほどではなかったとおっしゃっていました。世界中で経済活動が止まった余波で、弊社もそうですが、サプライチェーンが途切れた企業がありました。今後はまず複雑になっていたサプライチェーンを見える化、単純化する流れになるでしょう。

 弊社の顧客が多い素材産業では、今回をきっかけにプラントのオペレーションや、業務全体のプロセスを根本から見直すと考える経営者もいます。感染症が起こりうる社会で社員の健康、安全を守って事業を継続するには、人をできるだけ介在させずにプラントを運営する仕組みを整えなければなりません。リモート化が急速に進み、日本の製造業全体の生産性が上がるきっかけになるでしょう。

具体的にリモート化はどういう仕組みでしょうか。

奈良氏:遠隔から工場の設備の運転、保守を支援するサービスです。人を介在させずやりたいという企業からの要望がものすごく増えました。現地の顧客とシステムをリモートでつなぎ、プラントの動きがおかしいという問い合わせがあれば、遠隔監視や運転のソフトウエアを通じて中身を見て原因を追及し、復旧させます。運転員が操作したログを全部データに取っているので、大きいトラブルなのか過去の履歴も使って解析できます。通常運転だけでなく、プラントを立ち上げる場合も仮想空間を使って遠隔で顧客を支援しています。

もう少し長い目で見ると何が起こりますか。

奈良氏:リモート制御から自律制御へと進化するでしょう。5~10年先には、ほとんど人が介在しない「アンマンドオペレーション」の需要が高まると考えています。人工知能(AI)や解析のテクノロジーによって人間のように学習、適応する機能を持ち、運転中に問題が起こっても設定の範囲内ならオペレーターなしで解決して運転し続ける設備機能です。ほぼ無人制御のプラント工場はすでに実在します。厳しい自然環境に立地する設備から次第に広がっていくのではないでしょうか。

アセットを持たない流れ

原油価格が低迷し、エネルギーや素材産業の新規投資は減りませんか。御社の受注活動にもマイナス影響が出そうです。

奈良氏:中東、欧米系の石油大手などは、2020年度に設備投資を2~3割削る方針のようです。確かに大きく新規投資は停滞するでしょう。とはいえ石油需要がなくなるわけではない。石油会社は製油所の生産性を高めることで生き残りを図っています。弊社にとってはそこにソリューション営業のビジネスチャンスがあるのです。

 プラントはまるで生き物で、化学工場では新たに製品を加えたり、生産の順番を変えたり、生産管理の手法を改善するなど、プラントはどんどん進化します。新設のプラントに制御システムを入れてから15~20年は、システムのソフトウエアの改造、プラントの製品の増設など継続してサービスの需要があります。農耕民族型のビジネスモデルです。

大型受注に依存しているわけではない、ということですね。

奈良氏:そうです。コロナ後は顧客のモチベーションにも変化が出ていて、新たなサービス形態が求められます。新たな投資を一気にしたくない、アセットを持ちたくない、という流れがより強まっています。成果が出た分だけお金を支払う〝成果シェア型〟や、使ったデータに関してだけお金を支払う〝サブスクリプション型〟を志向される場合が増えています。

新型コロナはまだ収束していませんが、非接触以外にも見えてきた社会的な課題は何でしょうか。

奈良氏:医薬、食品、水、という人の生活基盤を支える重要性がこれまで以上に増し、ライフイノベーション事業の強化で貢献していきたいと考えています。弊社には生きた細胞を立体画像で観察するテクノロジーがあり、研究機関や創薬などでいろんな使われ方をしています。最近ではワクチン開発でも利用され始めました。細胞をつくる製造設備の自動制御もできるでしょう。細胞をコントロールするのは非常に難しいのですが、バイオ医薬には大きな可能性があり、コロナ後の医薬品産業に対して貢献を高めていきます。

今後10年は事業環境の激しい変化が予想されます。成長の活路はどこにありますか。

奈良氏:次の10年ははっきりと予測できません。しかし、軸や強みをしっかり持ちながら足りないピースを加えて、束ねていくことが成長には欠かせません。従来のように制御システムを納める会社だけでなく、システムインテグレーターもライバルになってきます。

 ただライバルとは協力もします。M&Aや協業で強みが生まれることもあるでしょう。またデジタルトランスフォーメーション(DX)も必要です。顧客の価値を訴求するビジネスでは、サブスクのような事業モデルの変化に合わせて人材変革が非常に重要になります。企業文化を保ちつつも人材は変革していかないと乗り遅れます。

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