東レは3月27日、大矢光雄副社長(66)が社長に昇格するトップ人事を発表した。社長交代は13年ぶり。日覺昭廣社長(74)は代表権のある会長に就く。大矢氏は衣料用繊維や炭素繊維複合材、リチウムイオン電池材料などをグローバル展開させた日覺氏からバトンを引き継ぎ、新型コロナウイルス禍もあってここ数年は収益が伸び悩んできた東レの再成長を目指す。

6月に開く株主総会後の取締役会での正式決定を経て就任する。
大矢氏は繊維畑出身で、長く日覺社長を支えてきた。機能性肌着「エアリズム」や「感動パンツ」の素材供給などを通じてカジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングとの協業を深めた。シートなど自動車の内装に使う人工皮革のブランディングや衛生用品に使う不織布のアジア展開でも実績を上げた。
日覺社長は2010年に就任。ファストリや大手スポーツブランドなど向けにポリエステルやナイロンなどの高機能繊維の取引を拡大。より川下のテキスタイル(生地)やニット製品の生産、衣料品の企画も積極的に手掛けるなど素材の付加価値づくりに力を入れた。世界首位の炭素繊維複合材でも米ボーイングや欧州の風力発電機メーカー向けの技術開発や生産能力の増強を推し進めた。
従来の東レはM&A(合併・買収)に消極的だったが、姿勢を転換。17年にはニット製品世界首位の香港パシフィック・テキスタイルズ・ホールディングスに約600億円を出資して筆頭株主になった。18年にはオランダの炭素繊維複合材大手テンカーテ・アドバンスト・コンポジット・ホールディングを約1230億円で買収した。規模拡大より繊維の付加価値を高めるM&Aに軸足を置いたのが特徴だ。

米国企業の経営や企業統治(ガバナンス)を株主利益ばかりを追い求める「金融資本主義」と呼んで批判し、従業員、顧客、取引先、周辺地域などあらゆるステークホルダー(利害関係者)に利益をもたらすことを訴えてきた(参考記事:東レ日覺社長、「日本のガバナンス改革には問題がある」)。
ただし収益成長についてはコロナ禍もあって思い描いたようには進まなかった。東レの23年3月期(国際会計基準)の連結売上収益(売上高に相当)は前期比13%増の2兆5100億円の見込みだが、同社が収益を見る上で重視する尺度「事業利益」は24%減の1000億円となる見通し。20年5月に財務目標として発表した売上収益2兆6000億円、事業利益1800億円はいずれも未達に終わる。
コロナ禍は落ち着きを見せているものの、ロシアによるウクライナ侵攻やそれを起点とするエネルギー・原材料の価格高騰などで経営環境は激変している。東レはトップ交代と合わせて新たな中期目標も公表する見通し。どのような数字が示され、達成への道筋をどう描くのか、大矢氏の手腕に再成長の成否がかかる。
■変更履歴 記事を更新しました [2023/03/27 13:45:00]
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