ロシアのウクライナ侵攻によって欧州で原子力発電への回帰が色濃くなる可能性が出てきた。欧州は天然ガスの約4割をロシアに依存し、特にガスパイプラインでつながるドイツでは影響が大きい。独はフランスから電力を輸入しているが、その仏は2021年来、脱炭素電源として原発新増設を旗幟(きし)鮮明にした。エネルギー安全保障の観点からさらにそれが加速すると専門家は見ている。欧州では原発産業が衰退しており、ロシアや中国の原発にも頼れない。日本勢の出番が増える可能性もある。

竹内主席研究員は「状況次第だが、原子力に世論が傾く国もある」と指摘
竹内主席研究員は「状況次第だが、原子力に世論が傾く国もある」と指摘

 「特にエネルギーについては経済制裁による「返り血」で、制裁をかけた方が身動きが取れなくなることが多い。ウクライナ問題がどこまで長期化するかにもよるが、欧州で『準国産エネルギー』たる原子力発電を活用すべきという方向に世論が傾く国があるかもしれない」。国内外のエネルギー動向に詳しい国際環境経済研究所の竹内純子理事・主席研究員はこう解説する。

 米欧日は国際資金決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを排除することを決めた。発動されればロシアは輸出するガスの取引代金を事実上、受け取れなくなる。ロシアからのガス供給が途絶えるリスクを覚悟のうえで、同国の行き過ぎた行動を抑止する「肉を切らせて骨を断つ」戦術だ。

欧州の脱炭素はプーチンが最大の受益者

 本当にロシアがガス供給を止めるかどうかは予断を許さないが、あらわになったのは欧州の脆弱なエネルギー市場だ。キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹は「ロシア依存は欧州の脱炭素政策がもたらした結果」と論じる。

 欧州は脱炭素のお題目のもと、石炭火力発電所を次々と停止。再生可能エネルギーの普及拡大にひた走ってきた。だが、それだけで電力はまかなえず、かえってロシアへのエネルギー依存を強める結果となっていた。

 欧州には本来であればガス資源が豊富にあるが、英シェルなど石油・ガス企業は、政府機関や金融機関などの圧力を受けて資源開発を縮小。事業売却も進めてきた。

 杉山氏は「今のウクライナ危機の構図を見ると、プーチン大統領こそが、EUの脱炭素政策からの最大の受益者となっている」と指摘する。そうした状況にあって欧州で「原発の新設や稼働の動きが進むだろう」(日本エネルギー経済研究所の小山堅専務理事)との見方が強まっている。

 ウクライナ危機が早期に収束したとしても、ロシアが何をしでかすか分からない以上、エネルギー安全保障の観点から原発を選択肢に入れざるを得なくなっているのだ。

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