日本の宇宙輸送を担う新型ロケット「H3」の開発が大詰めを迎えている。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業は1回あたりの打ち上げコストを従来比で半分の約50億円に減らそうと設計や製造を工夫した。2021年度の打ち上げを目指すが今後、米スペースXなど海外勢との厳しい競争を勝ち抜けるのだろうか。

報道陣に公開されたH3ロケット初号機の機体。2021年度に打ち上げを目指す

 H3は衛星や探査機を宇宙へ輸送するためのロケットで、現在の主力であるH2Aの後継機として開発が進められている。機体の主要部分について製造や動作確認にメドがついたため、今後、H3は発射場がある鹿児島県の種子島宇宙センターで打ち上げに向けた試験を始める。

 最終テスト段階に突入する目前の1月23日、三菱重工の愛知県飛島村の工場で燃料タンクやエンジン部分を載せた「コア機体」が公開された。設計段階から機体の構造をシンプルにし、輸送重量に合わせてメーンエンジン、ブースター数の切り替えをすることによって推力を変えられるようにした。

 搭載する部品は特殊なものを減らして自動車に使われる汎用品を用いたほか、3Dプリンターによる製造も採用した。機体に打つ鋲(びょう)をこれまでは手作業で打っていたが、機械装置を用いるなど製造工程も自動化を進めた。様々な面で作業効率を上げて受注から打ち上げまでの期間も短くする。

 三菱重工宇宙事業部の奈良登喜雄・主席プロジェクト統括は「打ち上げ費を抑えないと使ってもらえない。高い信頼性とともに、コストが下がる仕様になるよう開発し、海外ロケットとの競争で存在感を出したい」と抱負を語った。

 より安く、より短期間で宇宙まで運ぶ──。H3の目標をJAXAや三菱重工の開発メンバーに聞くと口をそろえてこう答える。高い打ち上げ成功率を誇る国産ロケットだが、低コストを意識せざるを得ない背景には、宇宙輸送の国際競争が激しさを増し、価格破壊がもたらされたことがある。

 大型ロケットでパラダイムシフトを起こしたイーロン・マスク氏率いる米スペースX、仏アリアンスペースなどがライバルで、なかでもスペースXは今後打ち上げコストが劇的に下がるとみられる。H2Aの約100億円からH3に代替わりして約50億円を実現できたとしても、スペースXの攻勢によって「相場水準がさらに下がってしまえばコスト競争力だけで勝負できるかは不透明」(三菱重工)という。

火星探査機を搭載して打ち上げられるH2Aロケット。後継機のH3は打ち上げコスト半減を目指す(写真:三菱重工業)

「何十年も使えるように進化させる」

 スペースXが低コストである理由のひとつがエンジンの一部を逆噴射させて回収し、もう一度使う「再利用型」だからだ。H2AもH3も国産ロケットは一度使った機体は回収しない「使い切り型」。再利用時に余計な改修費用がかからないことが前提となるが、高額なエンジンを何度も使い回せれば、1回あたりの打ち上げコストが低くなるのは当然だ。

 JAXAや三菱重工はH3を20年の長期にわたって運用することを想定。将来的に大型ロケットの再利用型が主流になり、H3は使い切りでのコスト競争に限界がくるとなれば、改良型として再利用技術を導入するなど対応を迫られるかもしれない。

 ただ、このシナリオも過度に悲観すべきではない。JAXAは宇宙輸送システムの開発スピードの加速を受けて、あらゆる可能性を想定。フランスやドイツの宇宙機関と国際協力し、現在は使い切りのロケットの第1段部分を再利用する研究を進めている。エンジンを逆噴射させて機体を回収するための燃料が必要で重くなるため、より大きな推力を要するほか、地上にきちんと軟着陸するためには高度な帰還誘導制御の能力が欠かせない。

 こうした研究はH3とは別のプロジェクトだが、スペースXなどとの国際競争が過熱するならH3への応用も視野に入れなければならない。H3は機器間をネットワークでつないでコンピューター同士が会話できる構成にしてあり、今後の技術革新にも柔軟性をもって対応できる。「何十年も使えるように、優れた技術を取り入れて進化させる」。三菱重工の開発メンバーの1人は闘志をみなぎらせる。スペースXとの勝負はこれからだ。

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