靴に装着すると、振動で道順を知らせてくれる――。従来、音声案内などに頼っていた視覚障害者の単独歩行をサポートする、靴装着型ナビゲーションシステム「あしらせ」が、22年度中に発売を控える。1月に米ラスベガスで開催されたテクノロジー見本市「CES」で「Innovation Award」を受賞し、期待が高まっている。デバイスを開発したのはホンダ発のスタートアップ。「周囲の様子が見えなくても、安心して一歩踏み出してほしい」。そんな思いを実現した、自動車開発の知見とは。

 「今までは地図を確認するのに時間がかかって、人混みを歩くのは不安で仕方なかった」

 

 埼玉県川越市に住む40歳の谷田光一さんは、23歳のときに病気で視力が低下し、現在の視力は右目が0.3、左目は全く見えていない。見える角度も、視覚障害を持たない晴眼者が180度程度であるのに対し、わずか2度だ。「見える景色は、ちくわの穴からのぞいた程度」(谷田さん)

 そんな谷田さんが靴に装着したのは、青白く点灯する四角い装置。これはホンダ発のスタートアップ、Ashirase(アシラセ、東京・墨田)が開発した、視覚障害者向けのナビゲーションシステム「あしらせ」のデバイスだ。「これで、人の多いところでも周囲の環境を認知することに意識を向けられた。ガジェット好きなので、あしらせを使って人通りの多い東京・秋葉原へも行ってみたい」と谷田さんは声を弾ませる。

Ashiraseが開発したナビゲーションシステム「あしらせ」。バッテリーなどが入った装置とソールから成るIoTデバイスは、好みの靴に付け替え可能だ
Ashiraseが開発したナビゲーションシステム「あしらせ」。バッテリーなどが入った装置とソールから成るIoTデバイスは、好みの靴に付け替え可能だ
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 靴の外側に装着する部分は手のひらよりも小さく、重さは35gと軽い。この装置には電子基板やバッテリーが搭載されている。内側に挿入するソール部分は足の甲やかかと、側面に沿って足を包み込むような形状になっていて、左右6カ所に振動装置がついている。連動する専用のスマートフォンアプリで目的地を音声や画面操作で入力すると、近距離無線通信のBluetooth(ブルートゥース)でデバイスに地理情報が送られ、指示を受けたソールが振動。直進や右折、左折などナビゲートしてくれる。

 例えば、直進時には両足のソールが1秒ほどの間隔で同時に「ヴー……、ヴー……」と周期的に震える。曲がり角に近づくとその間隔が「ヴーッ、ヴーッ」と0.5秒ほどに縮まっていき、右折するタイミングでは右足のソールの側面のみが「ヴーーーッ」と、ユーザーが右折するまで途切れることなく振動し続ける。ユーザーは、曲がり角が視界に入らなくても直感的に知ることができる。

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