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新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、都道府県知事の存在感が増している。テレビは連日、各知事の記者会見の様子を報じ、Twitterでは地方自治体のトップの名前がトレンド入りする。これまであまり顧みられることのなかった知事の言動が、どうしてこれほど注目を集めるようになったのか。自治省(現総務省)出身で、鳥取県知事時代には改革派として鳴らし、後に総務相も務めた早稲田大学公共経営大学院教授の片山善博氏に理由を尋ねた。

片山善博(かたやま・よしひろ)氏
1951年岡山市生まれ。74年東京大学法学部卒業、自治省(現総務省)に入省。自治大臣秘書官、固定資産税課長などを経て、99年鳥取県知事(2期)。2007年4月慶應義塾大学教授。10年9月から11年9月まで総務相。同月慶應義塾大学に復職。17年4月から現職。 併せて、鳥取大学客員教授、日本郵船株式会社社外取締役、「デジタル文化財創出機構」理事、「日本司法支援センター(法テラス)」顧問、「角川文化振興財団・城山三郎賞」選考委員、「活字文化推進会議」委員などを務める。 主要著書に『地方自治と図書館』(共著)(勁草書房 2016年)、『民主主義を立て直す 日本を診る2』(岩波書店 2015年)、『片山善博の自治体自立塾』(日本経済新聞出版社 2015年)、『日本を診る』(岩波書店 2010年)、『「自治」をつくる』(共著)(藤原書店 2009年)などがある。 テレビ出演は「日曜スクープ」(BS朝日) 、「ひるおび!」(TBS) 、「深層NEWS」(BS日テレ) 、「報道ライブ インサイドOUT」(BS11) 、「日経プラス10サタデー」(BSテレビ東京)など。(写真:竹井 俊晴、2019年4月撮影、以下同)

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、都道府県知事の存在感が急速に増しています。

片山善博・早大公共経営大学院教授(以下、片山氏):裏を返せば、今までほとんど話題にならなかったということです。要は、だいたい国の言う通りに従っていたので、耳を傾けるべき情報発信や行動がなかったんです。

 国のすることが全部正しいのならそれでも構いませんが、間違いもあるし、いい加減なこともある。また、仮に正しいことをやっていたとしても、うちの地域には少しそぐわないよねといったこともあるわけです。

 それなのに、みんな国の言う通りに従っていた。唯一例外なのは、米軍普天間飛行場の辺野古移設のような問題を抱える沖縄だけ。あとは平々凡々だったんです。

 ここに至ってどうして注目されるようになったかというと、珍しくコロナの対応策で国と自治体の間に齟齬(そご)が生じてきたからです。

齟齬ですか。

片山氏:国の言っていることと、自治体の言っていることを並べてみると、いくつかの自治体のトップの方が常識的で理がある。真剣にやっているということがだんだん明らかになってきていますよね。

 そうすると、注目度も高まるし、相対的に国のやっていることはいい加減で無責任だね、といったことが際立ってきますよね。そうして、政府といくつかの自治体のトップが対峙するような構図になっているのでしょう。

事前協議の要請、無視すればよかった

地方の言い分の方に理があるケースにはどんなものがありますか。

片山氏:いくつかありますが、有名なところでは、東京都vs.内閣府というか、小池百合子知事vs.西村康稔・経済再生担当相というのがありましたよね。

 緊急事態宣言というのは国の権限と責任で出すものですが、国は基本方針までです。その後、外出自粛や営業自粛の要請といった感染まん延の防止策を具体的に講じるのは知事の責任なんです。

 そういう仕組みなのに、西村経済再生相が本来なら知事がやるべきことまで運用指針に事細かに書き込んだ。なおかつ、実際に要請するに当たっては「逐一協議しろ」とまで注文したんです。

 これはどう考えてもおかしい。知事の権限を侵しているし、地域によって事情は異なるわけです。東京と大阪は違うし、兵庫とも違う。それなのにいちいち全部、事細かに国が決めて指示して、協議しろと言った。本当に非常識ですよ。

 小池知事も本当ならば、「うるさいわね。この野郎」と突っぱねればよかったんですが、根気強く3日間もかけて協議をした。緊急事態宣言を出したのに、いたずらに3日も棒に振ったわけです。

国はコロナ対策特措法で知事に大幅な権限を認めたのに、一方で事前協議をしろと地方を縛ったわけですね。

片山氏:事前協議の義務付けは法律事項ではない。あくまで運用指針にすぎない。厳密に言うと法律違反です。あれがまかり通ったら、法律で知事の権限がちゃんと用意されているのに、政府が作った基本的対処方針という文書で権限が大幅に縛られてしまうわけです。自治体側は無視すればよかった。

 法律上の根拠がなければ、国は自治体を従わせることはできないというのが、地方分権改革です。協議しなさいというのは、法律上のことではなくて、あくまでも国が願望を述べているにすぎない。要請もしくは助言なんです。

 勝手にやったら不安だろうから、相談したらどうですかという程度の意味合いですよ。自治体側に、そんなことをいちいちやっていられない、自分たちは責任を持って必要な対策を講じていきますというところがあってもいい。それが知事の権限をまっとうに行使するということでしょう。ほとんどの知事が国の要請に従ったとすればちょっと情けない。

厚労省の通知を漫然と受けた

国が対応を誤ったケースはほかにありますか。

片山氏:PCR検査もそうでしょう。対象を非常に狭めてしまっていた。現実として検査をするキャパシティーが足りないというのなら、キャパシティーを増やさなきゃいけないのに、その努力をしないで検査の件数を抑えるというのは本末転倒ですよね。これは一種の失敗です。

 一体、誰が間違えたのかと言えば、厚生労働省であることは明らかです。ただ一方で、地方側にも問題があります。

地方側にもですか。