新型コロナウイルスで世界最大の被害を出している米国。移動制限を余儀なくされる中、シリコンバレーを中心とした起業家やスタートアップ投資はどこまで影響を受けているのか。米国でスタートアップへの投資に約20年携わってきたWiLの伊佐山元CEO(最高経営責任者)に聞いた。

<span class="fontBold">伊佐山元(いさやま・げん)氏</span><br> 1995年にウェブデザインとコンサルを行うArch Pacificを米スタンフォード大学の学生と創業。97年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行に入行。法人営業および市場業務に従事。2001年よりスタンフォード大学ビジネススクールに留学。03年より米大手ベンチャーキャピタルのDCMにてパートナーとして、インターネットメディア、モバイル、コンシューマーサービス分野への投資を担当。シリコンバレーと日本を中心に、ベンチャー企業の発掘と育成に注力。日本にベンチャー精神を普及させるためメディアへも多数寄稿しているほか、経済産業省や文部科学省をはじめ、政府委員や有識者会議のメンバーとしてもベンチャー振興の提言を続けている。2013年にWiLを創業。
伊佐山元(いさやま・げん)氏
1995年にウェブデザインとコンサルを行うArch Pacificを米スタンフォード大学の学生と創業。97年東京大学法学部卒業後、日本興業銀行に入行。法人営業および市場業務に従事。2001年よりスタンフォード大学ビジネススクールに留学。03年より米大手ベンチャーキャピタルのDCMにてパートナーとして、インターネットメディア、モバイル、コンシューマーサービス分野への投資を担当。シリコンバレーと日本を中心に、ベンチャー企業の発掘と育成に注力。日本にベンチャー精神を普及させるためメディアへも多数寄稿しているほか、経済産業省や文部科学省をはじめ、政府委員や有識者会議のメンバーとしてもベンチャー振興の提言を続けている。2013年にWiLを創業。

新型コロナの影響でシリコンバレーの起業意欲に影響は出ていませんか。

伊佐山元・WiLCEO(以下、伊佐山氏):意欲は衰えていない。起業家精神は景気がよくても悪くても変化がない。私自身も過去に2回、10年おきに大不況を経験している。

 20年前に渡米した頃、IT(情報技術)バブルが弾け、10年前がリーマン・ショック。しかし、1990年代の終わりにはグーグルやセールスフォースの起業があり、2007年から09年にかけてはドロップボックスやエアビーアンドビー、ウーバーの起業があるなど、大きな企業が生まれている。

 不況時には社会の課題が顕在化する。それを解決することがチャンスになる。そのことをシリコンバレーの住人は分かっている。ただ不況になると資金が付かなくなる。この3月末までは事業会社が資金の出し手になっていて、経歴がよくアイデアがいい人には「よさげだね」とすぐに資金が付いていたが、今はかなりハードルが上がっている。

リーマン・ショックが金融危機だったのとは違い、今回は実体経済に影響が及んでいます。違いは何ですか。

伊佐山氏:具体的にはスタートアップへの投資額だ。全産業がダメージを受けたITバブルでは、ベンチャーキャピタル(VC)の出資額は半分以下になった。00年から01年に半分以下、01年から02年にまた半分以下といった具合で、悲惨な時期が5年近く続いた。しかしリーマン・ショック時は2割減で済んだ。金融がおかしくなるとお金の回り方が鈍化するので影響するが、その程度。今回はITバブルのような「全産業型」といえる。

 ヘッジファンドやミューチャルファンドもそうだが、今まで大きな資金の出し手だった事業会社が設けるコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)が完全に干上がる。企業は事業を守ることに必死で、スタートアップに資金を入れていられない。

そうした中でも資金を集める企業の条件とは何でしょうか。

伊佐山氏:この1~2カ月でそういう企業数が増えているかは分からないが、この4~5年の流れであるSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)やAI(人工知能)で会計や人事評価、採用などを自動化する流れが加速する。新型コロナの影響で売上高を伸ばしている。

 人を一カ所に集められないので在宅で仕事ができるツールに移行しないと、サービスの質が落ちる。財務・経理もAIで一括集計となるだろう。「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という、日本人が好きそうな言葉でくくられる企業への投資が増えるだろう。今は平時ではなく戦時。明らかにデジタルトランスフォーメーションをやりやすい時代だ。

 仕事の仕方が明らかに変わった。世界的に対面でのコミュニケーションというのがビジネスでは大事にされてきたが、そう言っていられなくなった。日本のような年功序列の社会では年下が年上の人にZoomで面談を申し込むというのは以前は考えられなかったが、新型コロナの問題が発生してからは断られることがなくなった。どんな大企業のトップでもZoomで面談してくれる。

 もちろん、ゴルフをして食事をして仲良くなるということはできないが、仕事の段取りでいったらZoomの方が効率的かもしれない。シリコンバレーでは外出禁止が解けてもZoomによる面談が残る。イノベーションを生み出す雑談はZoomではやりにくいし、人が増えると声が重なってしまう技術的な課題が残っているが、ワイガヤとZoomでプロジェクトを進める二極化が起きるだろう。

 結果としてオフィスのスペースが不要になる。オフィスを50%減らそう、30%減らそうという動きがシリコンバレーで起きている。不動産業は大変な時代になる。2カ月半で会社経営が変わった。外出禁止解禁後もこういう状況が続くとシリコンバレーの比較的大きい会社も言っている。

日本はどうでしょうか。

伊佐山氏:戻ってほしくはないが、意外と元に戻ってしまうかもしれない。ただ、金融業や行政は特にデジタル化されていない。銀行には注目している。今は支店に行かないと進まない手続きも多い。

 ウイルスとの戦いにより、毎年2~3カ月は外出自粛があるとなると、どうなるだろうか。日本企業のトップは変える気があるが、現場では変えたくない力が働く。トップの力が強い創業オーナー系の会社しか変えられないかもしれない。

伊佐山さんはどういう企業に投資をしていきますか。

伊佐山氏:日本だけでなくアメリカでも、対面を要するアナログなものをデジタルに変えるスタートアップに魅力を感じている。

 例えば、契約をデジタルで済ませられるようなソリューションを持つ会社に投資する。全く新たなものを生み出すスタートアップと、今あるものを進化させるスタートアップがあるが、実は後者が多い。デジタルや安心安全に関わる分野など、社会的ニーズを分かっているベンチャーへの投資を増やしていく。

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