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 新型コロナウイルスの感染拡大が企業経営を直撃している。帝国データバンクによると、5月8日までに発生したコロナショック関連の倒産は全国で120件以上。多くは観光業や飲食業、小売業だ。政府は緊急対策で資金繰りの支援などを試みているが、今後、不動産業や製造業でも耐えきれない会社は続出するとみられる。長期化が予想されるこの危機に国、企業はどういう姿勢で臨むべきか。早くから日本の産業構造を変換する必要性を唱えてきた経済政策の専門家、デービッド・アトキンソン氏(小西美術工芸社社長)に聞いた。

デービッド・アトキンソン 小西美術工芸社社長
1965年、英国生まれ。1990年来日。ゴールドマン・サックス証券金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表。2007年退社し09年に国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工芸社に入社、11年社長に就任。『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』『日本人の勝算:人口減少×高齢化×資本主義』(ともに東洋経済新報社)など著書多数(写真:的野弘路、以下同じ)

コロナショックは日本社会にどのような変化をもたらすと考えますか。

デービッド・アトキンソン小西美術工芸社社長(以下、アトキンソン氏):「高品質低価格」のものが良い、とされる日本固有の考え方が大きく見直されると思います。コロナは日本経済の産業構造の、一番弱いところを攻撃しています。

 つまり、資金の余裕のない規模の小さな事業者です。高品質はさておき、低価格でものを販売しコストギリギリの経営をしてきた企業は利益も貯金も少ない。これは、平時を前提にした事業モデルです。品質に適切な値段で提供できることが健全なビジネスの根本です。

近著の『日本企業の勝算』(東洋経済新報社)においても、小規模事業者が多いことが日本の生産性低迷の原因になっていると主張しています。

アトキンソン氏:今回のテレワークの実施率の数値は典型でしょう。経団連会員企業における実施率は97.8%です。東京商工会議所によると、この比率は、従業員300人以上で57.1%、中堅企業で28.2%、小規模事業者は14.4%と下がっていきます。

 ICTが普及し始めて30年近くがたつにもかかわらず、規模の小さな事業者ほど導入が進んでいないということです。つまり、導入率の低さの原因は規模の問題、日本経済の構造的な問題です。

コロナショックでは、相当数の会社が経営に行き詰まる可能性がありそうです。

アトキンソン氏:平時に適切な貯金をしてこなかったのだから、有事に国に助けてくれ、というのは本来、都合の良い理屈です。短期戦だと満遍なく企業を守る選択肢もありますが、長期戦では、人口減少時代、財政問題を冷静に考えた上で、産業構造を見直す必要があります。

政府はどう対処すべきだと考えていますか。

アトキンソン氏:企業に低生産性経営をやめてもらうという条件を付けることです。無条件で守るのではなく、支援にメッセージを添え、企業のマインドを変える必要があります。慢性的に赤字の中小企業は先端技術を使えず、輸出もできていません。給与は低く、サービス残業が多いなど問題も多く見られます。最低賃金の引き上げに対しても猛反対する。機会があったにもかかわらず成長できず納税もしない企業を優遇すべきではありません。

 企業に融資するときには、申請書類に「1人当たりの生産性」を書かせるべきでしょう。人口減が避けられない日本でGDP(国内総生産)を維持していくには、生産性を高めるしかありません。生産性が重要だというメッセージを政府が出す必要があります。従業員が何人いて、1人当たりの付加価値はいくらか。まずは企業に生産性を図る作業を始めてもらうべきです。