「新型インフル」に補償と罰則は必要ない

都道府県知事に休業要請の権限があると、経済的な補償において都道府県間に格差が生じます。例えば休業要請の影響を受けた企業に対する協力金や支援金について、支給の条件や金額が異なる。これは好ましいことではないのではないでしょうか。

木村:経済的補償について、新型インフル特措法は「自粛要請に対しては補償しない」という考えを選択した上で立法されました。「その対象に危険がある場合、その営業などを禁止するのに補償は必要ない」という伝統的な法理論があります。例えば、食中毒を出した飲食店に営業停止命令を出すのに補償は必要ありません。

今回の休業要請は予防的な性格が強く、例えば要請を受けたすべての飲食店に危険があるわけではありません。この点が引っかかります。

木村:新型インフル特措法はもともと、新型インフルエンザを想定して作った法律です。なので、予防的な休業要請を想定していないのです。新型コロナウイルスの感染拡大に対して、応急措置としては機能しますが万全ではない。新型コロナウイルスの感染に特有の事態に対応するためには、同ウイルスを対象にした別の特別措置法を制定する必要があるでしょう。

今回の緊急事態宣言による要請が罰則を伴わないことも議論の的になっています。全国知事会で、休業要請に応じない業者に対し罰則を設けるよう政府に要望する動きが進んでいます。

木村:罰則がないのも、この法律がそもそも新型インフルエンザを対象にしていることに由来します。新型インフルエンザ対策ならば、危険のある場所を指定し、自粛を要請し、それを周知すれば十分と考えられたのでしょう。

 季節性のインフルエンザの潜伏期間が2~5日、発症から治癒までが7日程度とされます。よって必要とされる休業要請の期間は2週間程度。これくらいの期間ならば経済補償や罰則がなくても、協力が得られると考えられたのです。しかし、新型コロナウイルス感染症はその特性上、最初から1カ月の自粛が要請されることになりました。

「新型コロナ」に合った特措法がない

新型インフルエンザ特措法が想定している事態と、新型コロナウイルス感染症が持つ特性とがマッチしていないわけですね。だから、このギャップを埋めるためには、新型コロナウイルス感染症を想定した特別措置法を設ける必要がある。例えば、「新型コロナウイルス対策特別措置法(以下、新型コロナ特措法)」。

木村:はい、その方が好ましいと考えます。要請の実効性を高めることを重視するのであれば、経済的な補償を導入するのがよいでしょう。場合によっては罰則も導入する。

罪刑法定主義*と対立することにはなりませんか。

*:罰則は法律で定める。法律が制定される以前に遡って適用することはできない。

木村:新型コロナ特措法が施行になる前の要請拒否に適用しなければ問題ないでしょう。

新法を準備するに当たって、現行の新型インフル特措法を改正するのと、新たな法律をゼロから作るのとでは、何か適・不適がありますか。

木村:現行の新型インフル特措法を残し、新たに新型コロナ特措法を作るのが適していると考えます。新型インフルエンザの感染が再び起こったときに現行法を使うことがあるでしょうから。経済補償や罰則を盛り込んだ新法は、新型インフルエンザの感染に対しては強い力を持ち過ぎるかもしれません。

日本には特措法が乱立している、との指摘もあります。感染症を対象とする基本法を制定するのはいかがですか。

木村:基本法の役割を果たすものとして、既に感染症法*があります。既に知られた感染症にはこれで対応できます。しかし、今回の新型コロナウイルスは既知のウイルスとは異なる特性を持つ。よって、その特殊な性質に合わせた特措法が必要になるのです。今回、問題とすべきは乱立ではなく、新型コロナウイルスの特性に合った特措法がないことだと思います。

*:正式名称は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律

パチンコ店の名称公表は制裁のためではない

緊急事態宣言一般についてうかがいます。危機管理の専門家と話をすると「緊急事態は国民を縛る側面に視線が集まるが、これは自由をはじめとする国民の権利を守るために制定するもの」という意見が多く聞かれます。とはいえ、私権を制限する強い措置や罰則と無縁ではいられない。このバランスをどう考えるべきですか。

木村:それは法的根拠と科学的根拠いかんです。国民の生命を守るために必要不可欠な対応だと科学的根拠に基づいていて、かつ、法的に適切な手続きを踏んで、その正当性がチェックされたのなら、国民の行動を制限することも違憲とは判断されないでしょう。今回の緊急事態宣言をめぐって法的根拠を伴わない措置が目に付きます。

 また、法の根拠がある場合でも、その趣旨を正しく踏まえていないように見えるものもあります。

 例えば、都道府県のいくつかが休業要請に応じないパチンコ店の名称を公表しています。新型インフル特措法45条が定める公表措置の趣旨は、「危険があるので近寄らない方がよい」ということを市民に周知するのが目的です。しかしながら、知事らの発言を追うと、見せしめにするべく公表する意図があるように聞こえるものがあります。

(感染を防止するための協力要請等)
第四十五条
2 特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、新型インフルエンザ等の潜伏期間及び治癒までの期間を考慮して当該特定都道府県知事が定める期間において、学校、社会福祉施設(通所又は短期間の入所により利用されるものに限る。)、興行場(興行場法(昭和二十三年法律第百三十七号)第一条第一項に規定する興行場をいう。)その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者(次項において「施設管理者等」という。)に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずるよう要請することができる。

4 特定都道府県知事は、第二項の規定による要請又は前項の規定による指示をしたときは、遅滞なく、その旨を公表しなければならない。

確かに、パチンコ店の経営者から「パチンコ店だけが標的にされ、もはや要請ではない。つるし上げのようになっている」との声が聞かれます。

 法的根拠のない措置というと、どのようなものが挙げられますか。

木村:安倍晋三首相が2月27日、全国全ての小学校、中学校、高等学校、特別支援学校に休校を要請しました。この要請の法的根拠は、定かではありません。やるのであれば、緊急事態宣言を発出して法的根拠を整え、科学的根拠を示して、知事が要請すればよかったのです。

 安倍首相の休校要請は良い結果を招きませんでした。具体的には過小な部分と過剰な部分があったと思います。

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