新型コロナウイルス感染の拡大がいまだ収束しない。これまでに講じられた対策をめぐって、首都大学東京の木村草太教授は「法的根拠を伴わない措置」が目に付くと指摘する。安倍首相の休校要請はその1つで「緩和ムード」という弊害をもたらした。緊急事態宣言のありようが注目される中、「首相の独裁権は今回役に立たなかった」と見る。

(聞き手 森 永輔)

安倍晋三首相が緊急事態宣言を4月7日に発令して、およそ1カ月になります。外出の自粛や休業の要請など、私権制限のありようが注目されています。

木村:「新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、新型インフル特措法)」という法律が定める緊急事態宣言の主な内容は、政府対策本部の本部長である首相が、各都道府県の知事に対策の権限を付与することです。権限を付与された知事は、外出自粛や休業の要請ができるようになるわけです。「緊急事態」という強い言葉に注意が向きがちですが、首相が強権的に何かするのを許すわけではありません。

<span class="fontBold">木村草太(きむら・そうた)</span></br />東京都立大学教授。1980年生まれ。東京大学法学部卒業。専攻は憲法学。主な著書に『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』『憲法の新手』『憲法という希望』など(撮影:菊池くらげ、以下同)
木村草太(きむら・そうた)
東京都立大学教授。1980年生まれ。東京大学法学部卒業。専攻は憲法学。主な著書に『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』『憲法の新手』『憲法という希望』など(撮影:菊池くらげ、以下同)

緊急事態宣言のキモは知事への権限付与

 従って、緊急事態宣言を解除するか判断する基準となるべきは、自粛要請などの権限を知事に与えておくのが適切かどうかです。宣言が発令されているからといって、学校を必ず休校にしなければならないわけでもなく、居酒屋に休業を要請しなければいけないわけでもありません。どちらも、各知事がそれぞれの都道府県の実情に合わせて判断すればよいことです。期間中に学校を再開するのも、休業の要請を緩めるのも問題ありません。

首相(同法の条文では政府対策本部長)は、知事に対し総合調整を行うことができると定められています。これと知事が付与された権限の関係はどのように理解すればよいですか。

 今回の緊急事態宣言で、休業要請をめぐって政府と東京都の見解にずれが生じました。理髪店やホームセンターを休業要請の対象にするか、しないか――。小池百合子都知事は「天の声が聞こえてきて、中間管理職になったような感じ」と不満を漏らしていました。

(政府対策本部長の権限)
第二十条 政府対策本部長は、新型インフルエンザ等対策を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、基本的対処方針に基づき、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長並びに前条の規定により権限を委任された当該指定行政機関の職員及び当該指定地方行政機関の職員、都道府県の知事その他の執行機関(以下「都道府県知事等」という。)並びに指定公共機関に対し、指定行政機関、都道府県及び指定公共機関が実施する新型インフルエンザ等対策に関する総合調整を行うことができる。

木村:緊急事態宣言を発出するかしないか、東京都を指定するかしないか、は政府が判断することです。ただし、具体的にどのような自粛要請をするかについては、条文上は知事の権限になっています(45条)。地域ごとに事情が異なるので、知事に権限を委ねるのが適切、というのがこの法律が定める緊急事態宣言の建て付けです。ただ、隣県との調整をしないと、こっちを厳しくしすぎたら、あっちに人が集中してしまった、なんてことになりかねません。そこで、都道府県と政府が調整する必要があります。

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