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新型コロナウイルスの感染拡大を人類5000年史の中に位置づけると、どのような意味を持つのか。人気連載「出口治明の『5000年史』講座」の著者、立命館アジア太平洋大学(APU)学長に聞いた。出口氏は、過去のパンデミックは全て、グローバリゼーションを加速してきたと振り返り、コロナ・ショックも同様だと分析。ウイルスが「人類のグローバルな信頼と連帯」を試していると指摘する。

立命館アジア太平洋大学(APU)の出口治明学長(写真:山本厳、2019年9月撮影)

今日は、出口さんにコロナ・ショックをどのように捉えているかを伺います。連載「出口治明の『5000年史』講座」では、何度も危機に直面しつつ、それを克服してきた人類が描かれています。コロナ・ショックを5000年史の中で捉えると、どのように見えますか。

出口氏:今回の危機は基本的には、超ド級の台風のような自然現象によるものです。ウイルスは何十億年も地球に存在しています。「半生物」という人もいますが、そのようなウイルスから見れば、たかだか20万年ちょっと前に現れた我々ホモ・サピエンスは新参者です。

 パンデミックは自然現象だから必ず終わります。それは過去のパンデミックの歴史を見ても明らかです。ワクチンや薬が開発されるとウイルスに対応できるので、それまでにいかに知恵を絞って犠牲を少なくするかという発想が大切になります。それは、「ハリケーン対人類」と同じように、「ウイルス対人類」の戦いです。そう考えると、世界共通の戦いにおける課題は次の3つに整理できると思います。

 まず、ウイルスは自分では動けません。人間が媒介しなければ感染は広がらない。つまり、世界中の指導者がやるべきことの第1は、「ステイホーム(動くな。人と接触するな)」と人々に語りかけることです。治療薬やワクチンが開発されるまでは、これ以外にウイルスという自然現象との戦いに勝つ方法はほかにはありません。

まずは、ステイホームを徹底せよ!ということですね。

出口氏:「台風のときには家にいろ。川なんか見に行ったらあかんで」というのと同じ話です。だから、世界中の指導者はステイホームをどうやったら実現できるか、市民に納得してもらえるかということに知恵を絞っているのです。これが1番目です。

 2番目が、ステイホームを実現するために働き続けなければならないエッセンシャルワーカー(キーワーカー)を社会全体で支援し、モラルアップすることです。医療従事者はもちろんですが、スーパーや物流などで働いている人、正しい情報を伝えるメディアの人、市民サービスを提供する市役所など公的機関の人、組織を維持しなければならない企業の幹部などです。もちろん政治家もそうです。

 彼ら、彼女らは、この大変な状況の中でもステイホームができません。そういう人々を、いかに励まして支援するかということを、世界中の指導者は今、必死に知恵を絞っているわけです。

 そして3番目が、ステイホームの結果、収入が減った人たちを支援することです。ステイホームで働けなくなる人にとっては、収入減を意味しますからね。

外出自粛によってお店が営業休止になったり工場が止まったりして働けなくなり、収入が減った人たちへの支援ですね。

出口氏:そうです。ステイホームによる収入減は、立場が弱い人たちへの影響が大きい。APUの場合は、例えば学生のアルバイトです。別府(APUは大分県別府市に本部を置く)は観光都市ですから、学生アルバイトのほとんどはホテルや飲食店での仕事です。現在、ホテルや飲食店のほとんどが休業しています。そうなると、学生のアルバイト先がなくなる

 特に、外国人学生は簡単に親元からの送金を得られるわけでもないので大変です。APUを含めた立命館学園全体として、総額25億円の支援策を打ち出しましたが、大分県にもお願いして奨学金の拡充を図っていただこうと考えています。また、卒業生と教職員でファンドを募って食料支援なども始めています。

 これはAPUの場合ですが、企業では正社員よりパートなどの非正規社員の方が影響を受けやすいですよね。そういう社会的弱者への緊急の対策、つまり所得の再分配政策が重要になります。その政策をどのように設計して速やかに実行するかに、世界のリーダーは頭を痛めているわけです。

 そして、コロナ・ショックで特徴的なことは、こうした3つの課題に取り組む指導者の発言や行動を、全世界の人たちがほぼ同時に交流サイト(SNS)で見ていることです。