入院拒否者への50万円以下の過料などを定める改正感染症法が2月に施行された。兵庫県明石市の泉房穂市長は会見の場で「ハンセン病の教訓が全く生かされておらず、歴史の汚点」と批判した。泉市長に法改正の懸念点や、今後の新型コロナウイルスへの対応について聞いた。
2月13日に新型コロナウイルスの感染者が入院を拒んだ場合に罰則を科せる改正感染症法が施行されました。これを強く批判しています。
泉房穂 明石市長(以下、泉氏):感染症法というのはハンセン病の悲しい歴史を踏まえて、感染した人の人権に最大限配慮することを念頭にできた法律です。だから前文にも「感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め、これを教訓として今後に生かすことが必要」と書かれてあります。

東京大学教育学部を卒業しNHK入局。退職後に弁護士試験に合格し、2003~05年に衆院議員を務めた。11年に明石市長に当選。19年2月に市幹部への暴言で辞職したが同年3月の出直し選で3選を果たし、4月の統一地方選では無投票で当選した。
そうはいっても感染症の中には隔離する必要があるものもあり、これまでの感染症法でも行政による措置入院ができるようになっています。身柄を拘束して入院させることができるわけですから、もちろんそこには人権侵害の要素もありますが、しっかりした要件の下で人権に配慮した形で行われることになっています。
必要であれば措置入院ができるわけだから、それに罰則を科す必要はあるわけがない。むしろ罰則を科すことによって感染したことがあたかも悪いような、ある意味において差別の助長につながる可能性もあります。
私が必要だと思うのは、なぜ感染者の中に入院したがらない人がいるのかを考えるということ。小さな子供がいて面倒を見る人がいなくなるとか、親の介護をする人がいなくなるとか、さまざま事情があります。そこを解消し「安心して入院してください」という取り組みが行政には必要。北風と太陽でいう太陽路線の政策が必要だと思います。
今回の改正は天下の悪法で、歴史の汚点であることは明らかです。20年後、30年後には教科書に「なんて愚かな法改正だったんだ」と書かれ、「2021年は恥ずかしい法改正をした年」として子どもたちが学ぶことになるのではないでしょうか。私はそれくらい怒っているのです。
新型コロナウイルスの流行開始から1年あまりがたちました。どのようなことを考えて市政運営をしてきましたか。
泉氏:シンプルです。市民に寄り添う、市民のニーズに応えていく。それに尽きます。第1波から直近の第3波までありましたが、その時々に市民の不安や必要性に応じた政策を、国の対応を待つことなくやってきました。
私は明石市の市長であり、市民に近いいわゆる基礎自治体の長の立場。国はある意味全体を見るという立場ですが、市民の生活から遠く、施策には限界もあります。それに対して、私はより近い立場で、市民や地域経済、商店街を含めてリアリティーが把握できるのです。
具体的には街に出るのが不安な方が多くいるリアリティーを受け止めた経済対策が必要だということ。去年の4月、緊急事態宣言が全国に出ていたころは今思えば感染者数はそこまで多くなかった。でも、国民の不安感はすごく強い状況だったわけです。多くの人々が将来への不安に打ちひしがれていました。
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