新型コロナウイルスの感染拡大によって多くの業界が窮地に追い込まれている。演劇界もその1つだ。舞台や客席、楽屋が狭い「小劇場」は密な状態になりやすく、実際にある小劇場ではクラスターが発生して社会問題化した。

 東京・下北沢に小劇場を8つ展開し、小劇場の雄として多くの名俳優を生み出した本多劇場グループの本多愼一郎総支配人に、小劇場界の現状とこれからを聞いた。

本多愼一郎(ほんだ・しんいちろう) 本多劇場グループ総支配人、本多企画代表取締役。1975年、東京都世田谷区生まれ。本多劇場創業者・本多一夫氏の長男。玉川学園高等部卒業後、劇団青年座研究所にて演技を学び、桐朋学園大学短期大学部(現・桐朋学園芸術短期大学)を経て、99年、本多劇場グループ「劇」小劇場に入社、「劇」小劇場、小劇場楽園の主任を務める。小劇場の設立管理に尽力し、現在では劇場設備や劇場運営管理に関するアドバイザーの一面も持つ。2013年より本多劇場グループ総支配人。(写真:的野弘路)

本多劇場は1982年の開業以来、「劇団東京ヴォードヴィルショー」や「劇団東京乾電池」など、多くの人気俳優が舞台を踏んでいきました。俳優にとっては憧れの舞台の1つでもあります。そんな本多劇場も新型コロナ禍で長期にわたってグループが持つ8つの劇場を休館されました。

本多愼一郎・総支配人(以下、本多):昨年は4月初旬から5月いっぱい、すべての劇場を閉めました。「今劇場を開けていていいのか」という声を多数いただき、劇場を使用する予定だった劇団の方ともいろいろお話をさせていただきました。利用する団体すべてと「公演を続けるかどうか」という話し合いをしました。本来であれば、「ぜひうちで公演してください」とお願いするのが私たちの仕事なのに、です。

 「不要不急」という言葉でまとめられて、演劇をはじめライブハウスやスポーツ観戦などのエンターテインメント産業を中心に、休業を余儀なくされました。

 私たちにとって、劇場は仕事をする場。スタッフさんや役者さん、多数の方々が来る仕事場なんです。そこを閉めなければいけないというのは非常につらかったです。

劇団は2年半前から準備、それでも中止に

「晴れ舞台」という言葉もありますが、本多劇場での公演を楽しみにしているのはお客さんだけでなく、演者やスタッフもいます。

本多:ありがたいことに、当グループの劇場によっては、予約は2年か2年半先まで埋まっています。逆に言うと、劇団の方は2年半前から準備を始めているわけです。

 脚本家が練りに練った本を書く。観客にどのように見せるか、演出家は新たなチャレンジを盛り込んだ見せ方を追求する。そして役者は本を読みこんで自分なりの表現を追い求める。その結果としての公演です。

 その後も予約は入っているので、後ろにずらすということはできません。ですから、予約し直していただいても、また2年半後になってしまう。

 新型コロナ禍が広がった昨年3月に、劇団の方にお話ししましたが、4月に初日を迎える団体さんなどはもうお稽古も本格化しています。皆さんの努力をすべて消してしまう。それを伝えるのは心苦しかったです。

(写真:的野弘路)
続きを読む 2/3 固定費は月に2000万円も売り上げはゼロに

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