ANAホールディングス(HD)傘下の格安航空会社(LCC)、ピーチ・アビエーションは貨物事業に参入した。旅客機の貨物スペースを活用し、生鮮品や電子関連部品などを運ぶ。ただ同社が使う小型機の貨物スペースは小さく、1便で運ぶ荷物は800キログラム程度を想定しており、かなり少ない。それでも貨物事業に取り組む狙いは何か。

生鮮品など小口の荷物が積み込まれていくピーチ・アビエーション機(11月1日、福岡空港)

 11月1日朝、福岡空港。ピーチ・アビエーションの機体に、白い発泡スチロールの箱に入った野菜など生鮮食品がベルトコンベヤーで積み込まれていく。機体下部の貨物スペース(ベリー)内ではスタッフが箱を整理する様子がうかがえる。

 ピーチは1日、貨物事業に参入した。福岡空港から那覇空港、新千歳空港に向かう便で、ANAと貨物便としてのコードシェア(共同運航)を実施。ANAHDの貨物事業会社、ANAカーゴがピーチの代わりに貨物スペースの販売を担う形だ。

 初便となった那覇行きの便は、生鮮食品に加え、生活雑貨など562キログラムの貨物を積んだ。ANAカーゴの国内貨物販売部九州販売支店の尾田真支店長は「九州は生鮮食品や工業製品の貨物需要が大きい。収益性は期待できる」と話す。

 ただ、562キログラムという積載量は航空貨物にしてはかなり小規模だ。例えば、同じLCCで、親会社の日本航空(JAL)と国際貨物便のコードシェアをしているジップエア・トーキョー。米ボーイング製の中型機「787-8」を使用しており、ベリーには約20トンの貨物が積める。ANAが保有する貨物専用機、ボーイング「777F」は最大100トンを運べる。

 対してピーチが使うのは欧州エアバス製の小型機「A320」。ベリーには最大約2トンしか積めない。実際は旅客の手荷物などもあるため、1便で800キログラム程度の貨物を運ぶ想定をしている。またピーチが保有する機体には貨物コンテナを積み込めない。運航効率を高めるため、フルサービスキャリアに比べ、駐機時間を短く設定している中「人海戦術」(尾田氏)で荷物を積み込んでいく必要がある。

 ANAカーゴは国内航空貨物の運賃を公表している。1口ごとの重量にもよるが、11月の一般貨物1キログラムあたりの運賃は福岡ー那覇間の場合、165~425円。中央値を取って計算してみると、800キログラムを運んだ場合の貨物収入は20数万円となる。あくまで目安ではあるが、航空ビジネスのスケールを考えると微々たる数字といえる。

 それでもピーチが貨物事業に取り組まざるを得ないほど、航空業界が苦しんでいるということだろう。ANAHDの場合、2020年4~9月期の売上高2918億円のうち、貨物・郵便収入が615億円に上った。JALは1947億円のうち、534億円。特に国際線で旅客便の大幅減便による貨物スペースの供給不足が続き、運賃が上昇。JALは前年同期に比べ、貨物収入が増加した。

 国内線は旅客便の復便が進んでおり、需給の逼迫感は国際線に比べると抑えられている。ただ、機材の小型化が進み、便数に比例して貨物スペースの供給が戻っているわけではない。ANAHDはピーチの小さな貨物スペースでも活用して貨物収入を増やしたいところだ。

 加えて、ANAとピーチの間には特殊事情もある。ANAは現在、成田空港発着の国内線を全便運休している。一方で成田は国際貨物輸送の拠点だ。九州や北海道、沖縄まで運ばなければならない貨物は、トラックなどで羽田空港に移す必要が出ている。

 そこで12月からは、成田空港を拠点としているピーチが国際貨物の国内輸送区間を一部担うことになる。大型貨物は積み込めないため、全てをピーチの貨物スペースでまかなえる訳ではないが、幾分かのコスト削減にはつながる。

 またANAは国内で地方と地方を結ぶ路線を縮小する一方、ピーチは地方路線網を拡充するなど、今後両社間では路線のすみ分けを図っていく方針だ。国際線でもANAは運休しているものの、ピーチは運航しているという路線が出てくるだろう。ANAHDはLCC事業を強化して、ビジネス需要よりも戻りが早いと見込むレジャー需要を取り込む方針だが、グループの貨物路線網を補完する存在としてもピーチの重要性が増している。

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