特集連載「ANA・JAL 苦闘の600日」の第2回。日本の「LCC元年」から約10年たった。新型コロナウイルスの感染拡大に苦しむ航空大手2社はそろって、再成長のエンジンにLCC(格安航空会社)事業を据えた。ただ、その戦略は微妙に異なる。それぞれが描く勝ち筋とは――。

LCCは航空の新規顧客層を開拓してきた
LCCは航空の新規顧客層を開拓してきた

 「LCCの使われ方が少し変わってきている」。こう話すのは全日本空輸(ANA)の井上慎一代表取締役専務執行役員だ。ANAホールディングス(HD)傘下のLCC、ピーチ・アビエーションのCEO(最高経営責任者)を11年の設立時から20年まで務め、同社を旅客数で国内第3位の規模まで押し上げた人物でもある。

 日本のLCCの歴史は浅い。米国最大のLCC、サウスウエスト航空は約50年の歴史を誇り、欧州拠点のライアンエアーやマレーシアのエアアジア・グループも20年ほどかけ、各地域でLCCとして大きな存在感を示すようになった。

 日本のLCC元年は2012年。日本航空(JAL)とオーストラリアのカンタスグループが共同出資するジェットスター・ジャパンやピーチが相次いで運航を始めたのだ。合従連衡や淘汰を経ながらも、日本の国内線旅客数に占めるLCC利用の割合は7年間で、10.6%に達した。

 盛り上がりを見せる半面「やはり消費者の間ではLCCに『安かろう悪かろう』という先入観があった」(ANAHDの芝田浩二代表取締役専務執行役員)。LCCは無駄なコストを極力排除し、低価格を武器にしてこれまで航空を利用してこなかった層を空の旅へいざなった。ただ、ANAやJALのようなフルサービスキャリア(FSC)が抱える顧客がLCCを使うことはあまりなく、その逆もしかり。客層がはっきり分かれていた。

 一方でLCC先進国では、FSCとLCCを利用シーンに応じて上手に使い分ける消費者が増えている。同じ消費者が出張や少しリッチな旅に出かけたいときはFSC、家族で格安旅行に出かける際はLCCを使う、といった具合だ。航空利用者のパイが広がりながら、利用頻度も高まっていく。FSCの事業規模の拡大と並行して、航空業界に占めるLCCのシェアは東南アジアで56%、北米でも30%まで広がった。

 そして日本でも、利用シーンに応じて使い分ける消費者が徐々に増えている、というのがANA井上氏の見立てだ。

 そんな中起きたのが、新型コロナウイルスの感染拡大だった。テレワークやオンライン会議の普及で、FSCが得意としてきた出張などビジネス需要は減少。コロナ禍前の水準まで回復することはもうないとの悲観的な見立てをする業界関係者は少なくない。ただでさえ、日本は人口減少社会だ。FSCもLCCを強化して、新たな市場を開拓していかなければ成長は見込めない。そこでANAHDとJALは、LCC事業の強化にそろって取り組み始めた。

 JALは21年に中国系のスプリング・ジャパン(旧・春秋航空日本)を連結子会社化。50%出資するジェットスター・ジャパンと、20年に運航を始めた完全子会社のジップエア・トーキョーの3社で成田空港を拠点としたLCCネットワークを構築する方針を掲げた。

 ANAHDは子会社のピーチに加え、22年度後半にも新たに「第3ブランド」を立ち上げ、アジアやオセアニアと日本を結ぶLCCとして事業を始める。一見すると、ほぼ同様の戦略だ。ただ、両陣営のLCCに対するスタンスは異なる。ANAHDはFSCとLCCを一体的なネットワークとして捉えようとする。

 「関西空港と中部空港発着の国内線運航は全てピーチに移管する」

 20年初夏、コロナ禍を受けたコスト削減などを含む事業構造改革計画の策定を急ぐANAHDの中でこんな案が浮上した。

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