特集連載「ANA・JAL 苦闘の600日」の第7回。前回のANAホールディングス(HD)に続き、今回は日本航空(JAL)のキーマンにコロナ禍対応の振り返りと再生への展望を聞いていく。「私の目の黒いうちはそんなことはさせないですよ」。8月、2021年4~6月期の決算発表の会見の場で、好調な貨物事業で専用機を導入しないのかという報道陣の問いにこう答えたのはJALの菊山英樹代表取締役専務執行役員だ。10年の経営破綻時は経営企画室部長を務め、苦汁をなめた同氏。再建を果たした後は経営の中枢を担い続け、規律的な財務体質を保ってきた。コロナ禍後も先手先手の資本調達に動くなど、積極的に保守路線を貫こうとしているようにも思える。入社年次は赤坂祐二社長の4年上。名実ともにJALの「お目付け役」とも言える菊山氏に、コロナ禍への対応、アフターコロナへの道筋を聞いた。

<span class="fontBold">菊山英樹(きくやま・ひでき)</span><br>1983年日本航空入社。07年に経営企画室部長、10年に執行役員経営企画本部副本部長。13年専務執行役員路線統括本部長。16年取締役、19年取締役専務執行役員財務・経理本部長。20年より代表取締役専務執行役員。米州支社での勤務などグローバル経験も持ちながら、航空会社の保守本流ともいえる部署を統括してきた(写真:的野弘路)
菊山英樹(きくやま・ひでき)
1983年日本航空入社。07年に経営企画室部長、10年に執行役員経営企画本部副本部長。13年専務執行役員路線統括本部長。16年取締役、19年取締役専務執行役員財務・経理本部長。20年より代表取締役専務執行役員。米州支社での勤務などグローバル経験も持ちながら、航空会社の保守本流ともいえる部署を統括してきた(写真:的野弘路)

「私の目の黒いうちはそんなことさせないですよ」という発言、非常に印象に残っています。

JAL菊山英樹代表取締役専務執行役員(以下、菊山氏):これを聞いて「おまえの目なんかすぐ白くなる」と言った人がいるとかいないとか。

でもあの言葉には売上高やシェアの拡大をいたずらに追わず、収益力を重視するというJALのこの10年間の軌跡が凝縮されているような気がしています。

菊山氏:あの会見に限らず、投資家などからもよく聞かれるんです。旅客需要が低迷していて、貨物需要が旺盛なら旅客機を貨物機に改造したらどうかとか。でも改造などにお金もかかるし、貨物事業のボラティリティー(変動率)の大きさは半端ではない。我々が貨物専用機を持っていないのは2010年の経営破綻というとんでもない経験がきっかけなんです。

それだけ、リスクを回避しながら、堅実に利益を積み上げつつ、財務規律もしっかり保つことを重視してきた10年間だったということなのかなと考えています。

菊山氏:リスクを全く取らないわけではありません。ノーリスクで成長できるのであれば誰も苦労しませんから。でも経営破綻の背景には、貨物に象徴されるような過度なボラティリティーに依存した冒険主義的投資があった。それは身をもって思い知らされたことです。もちろん他にも至らぬ部分はありましたが、立ち直るチャンスをいただいたのなら、その反省を生かすのは大前提。この10年間のような事業運営になったのは必然的だったと思います。

破綻後は競争環境を保つため、ドル箱の羽田空港の発着枠の配分などで競合のANAHDへの優遇が続きました。保守的な事業戦略を取らざるを得なかった、という側面もあるように思えます。

菊山氏:それは事実でしょう。ご存じの通り、「8.10ペーパー(JALの新規路線の開設などを事実上抑制する国土交通省の指針)」なんかはその典型的なものです。指針が示された当時(12年)は路線の設定などを担当していましたから、フラストレーションは強く感じていました。競争環境を確保して利用者の利便性を高めるという観点から見て(この政策は)どうなのかという。その結果として、シェア拡大に走りようがなかった部分はある。

 でももしそうした制約がなかったとしても、経営破綻前のような、収益が出るかどうかにかかわらずシェアありきで動くような事業運営は確実にしていないはず。(経営再建時に取り入れた、路線ごとなどの単位で採算を管理する)部門別採算の仕組みではけん制機能が働きますから。もし拡大路線を走っていたら、コロナ禍のインパクトはもっと大きくなっていたかもしれませんね。

おっしゃる通り、保守的な事業展開を進めてきたからこそ、欧米や国内の同業他社に比べると財務基盤は強固です。

菊山氏:相対的に間違いなく有利ではあります。でも、コロナ禍でボラティリティーが高まる今、それでも不安に感じる部分はあります。ただ、コロナ禍は象徴的ですが、そもそも航空ビジネスには(地政学的リスクなど様々な)潜在的なリスクが常にあります。その上で、成長に必要なリスクをどこまで取るかという判断を適切に下してきたつもりです。

競合のANAホールディングス(HD)はJALの「足かせ」を尻目に拡大路線に突き進んできたからこそ、財務的に苦しいという言い方もできます。

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