次は大手2社のコロナ禍以前の動きを見比べよう。③は両社の12・20・21年の事業規模の推移を示している。21年3月末の機材数は、退役済みの機材を除いている。

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 JALは破綻後、国土交通省によるいわゆる「8.10ペーパー」で投資や路線の開設を抑制されたことなどもあり、シェアではなく収益力を重視する方針に切り替えた。例えば国際線では、自前での運航ではなく、海外勢とのコードシェア(共同運航)や共同事業(ジョイントベンチャー)でネットワークを拡充し、確実に利益を上げる戦略を取った。供給力を示す機材数や従業員数は破綻前の水準にいまだ達していない。

【用語解説】→コードシェア

同一路線で複数の航空会社の便名をつけ、共同運航すること。国際線では同一路線に協力関係のある2社が就航している場合、互いの運航便に自社の便名も振り、負担を軽減しながらネットワークを拡充するケースが多い。一般的に、相手先の運航便に自社便として予約が入った場合、その会社は相手先から手数料を得られる。国内線では海外勢が自社の国際線の利用客が乗り継ぎをしやすくするために実施する場合や、大手がネットワークを拡充するために同業と手を組む場合がある。前者の場合、海外勢は送客手数料を国内勢から得られる。後者では同業から一定数の座席を仕入れ、自社便として販売することでその差額を利益として得ている場合もある。

【用語解説】→共同事業

コードシェアから一歩踏み込み、事業者間でダイヤや料金を調整しながら一体的にサービスを提供する形態。得られた収入は契約に応じて分配する。全日本空輸(ANA)は米ユナイテッド航空や独ルフトハンザ、JALは米アメリカン航空や英ブリティッシュ・エアウェイズなどと実施している。ただ、ダイヤや料金は競争環境を左右する要素であるため、関係国当局から独占禁止法の適用除外の認可を受ける必要がある。JALは豪カンタス航空や米ハワイアン航空との共同事業を模索したが、当局の認可を受けられなかった。

 一方ANAHDはインバウンド需要の拡大を背景に、「足かせ」がついたJALの間隙を突く形で一気に事業規模を拡大した。従業員数は20年3月までの8年間で4割増え、機材数(傘下のLCC=格安航空会社を含む)は3割強増えた。増えた機材の中心は低燃費で航続距離が長い米ボーイングの中型機「787」だ。当局はJALの破綻後、競争環境を保つため、羽田空港の新規発着枠をANAHDに多く割り当ててきた。これも活用しながら、特に国際線の路線網を広げていった。

 結果、売上高は19年3月期までの7年でANAHDは46%拡大し、JALは23%増にとどまった。ただし、営業利益率はJALが19年3月期に11.8%、ANAHDは8%と「稼ぐ力」はJALに軍配が上がる状況だった。

 20年は羽田空港の国際線発着枠拡大、そして東京五輪・パラリンピックの開催が予定されており、拡大路線を続けてきたANAHDは国際線の路線数を8年前の1.5倍に当たる75まで拡大し、いよいよその果実を得ようと考えていた。

 そんな中、新型コロナウイルスの感染拡大が巻き起こった。21年3月期の売上高は前の期に比べ、ANAHD・JAL共に半分以下にまで落ち込んだ。

 ④は両社の20年1月以降のRPK・座席供給量(19年同月比)と利用率を示すグラフだ。

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 一見すると、両社とも同じような推移をたどっているように見える。ただ細部にまで目を配ると、それぞれの戦略や危機対応の違いが見えてくる。

【用語解説】→RPK・座席供給量・利用率

RPKは旅客が搭乗し、飛行した距離の合計。旅客数に比べ、どれだけ需要を取り込めたかがより実態に即した形で分かる。座席供給量は総座席数と飛行距離を掛け合わせたもの。座席キロと呼ばれることが多い。例えば同じ路線でも、機材を小型化するほど、座席供給量は少なくなる。RPKを座席供給量で割ると、利用率がはじき出せる。ANAHDやJALの場合、平時は5~6割が利用率上の損益分岐点とされる。

「Go To トラベル」需要取り込んだJAL

 20年7月から始まり、10月からは対象地域に東京都が追加され、「地域共通クーポン」の発行も始まった国の観光需要喚起策「Go To トラベル」。12月に一時停止となるまでの間、国内線RPKのJALの回復度は常にANAHDを上回った。JALの豊島滝三取締役専務執行役員は「Go Toに合わせた色々な売り方ができた」と振り返る。

 例えば傘下の旅行会社、ジャルパックでは原則、往復の航空券とホテルなどをセットで販売しているが、Go Toに合わせて片道航空券とホテルのセット販売を始めた。Go Toを活用しながらも自由な旅程を組めるようにしたのだ。一方、旅行会社経由で販売する航空券の単価は安い。20年10~12月期の国内線のイールドは前年同期に比べANAHDが7.3%の低下なのに対し、JALは10.5%低下した。

【用語解説】→イールド

旅客1人に対する、キロメートルなど距離単位あたりの収入単価。旅客収入をRPKで割ると算出できる。航空会社はイールドを向上させるため、適切な路線網の展開や需給に応じた価格の変動(ダイナミックプライシング)などの戦略を練る。

 21年度に入ると、ANA国内線のRPKと座席供給量のかい離が徐々に解消されている。ANAカーゴの外山俊明社長は「旅客部門と貨物部門が綿密な調整を繰り返して供給を調整している」と証言する。

 国内線では貨物需要も鑑みながら、旅客需要の増減に合わせて機材の小型化を進める。20年秋からは上級クラスの座席数が多く、国内線仕様に比べ全体の座席数が少ない国際線仕様の中型機を国内線に積極的に投入した。

 一方で国際線は貨物需要が旺盛で、旅客を乗せず貨物だけ載せる貨物専用便が多く飛ぶ。沖縄にも配備していた貨物専用機を全て成田に集めて需要に応える取り組みも始めた。機材繰りを綿密に計算しながら、低迷する旅客需要に合わせて座席供給量を落としつつ、貨物スペースの供給は最大化しようとしているわけだ。こうした取り組みが徐々に「洗練されつつある」(外山氏)。

【用語解説】→貨物専用便・貨物専用機

貨物専用便は旅客機の客室の床下にあるベリーと呼ばれる貨物スペースを使い、旅客は乗せず貨物だけを載せて運航する便。貨物専用機はフレーターとも呼ばれ、客室をなくし飛行機全体で貨物を運ぶ。ANAHDは貨物専用機を計11台保有するが、JALは破綻を機に貨物専用機を全て手放した。そのため、JALは貨物需要が旺盛な今も、貨物専用便や他社便のチャーターを活用して、需要に応えている。逆にANAHDは現在、貨物専用機がフル回転しているが、コロナ禍前は米中貿易摩擦の影響で貨物需要が低迷しており、19年に導入した米ボーイング製の大型貨物専用機「777F」はその供給力を生かし切れず、「お荷物」扱いされていた。

 業界では「不採算路線の維持をコードシェア先の運航に頼っている」との見方もあるが、いずれにせよRPKと座席供給量のかい離が小さくなれば、座席の利用率は上昇する。20年7月以降、国内線の利用率はJALがANAHDを上回る状態が続いたが、5月以降はANAHDが逆転した。

 その結果は業績面にも表れている。⑤は四半期ごとの両社の売上高と営業利益(JALはEBIT=利払い・税引き前利益)の推移を示す。コロナ禍の影響が出始めた20年1~3月期以降、事業規模の大きいANAHDの赤字幅はJALを上回リ続けたが、21年1~3月期にその状況が逆転した。

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 売上高の内訳を見ると、ANAHDの21年4~6月期の貨物事業の売上高は前年同期に比べ2.5倍弱の735億円。JALは約1.8倍の476億円だ。売り上げ規模の差は貨物専用機の有無で説明できるが、伸び率は機材繰りの巧拙が左右したとも言える。

 赤字幅を左右するのは売上高の増減だけではない。営業費用をどれだけ削減できたかにもよる。⑥は決算説明会資料に基づき、ANAHDの売上高の多くを占める航空事業、JALは全体の営業費用の推移を示したものだ。

 供給量に合わせて増減する変動費は両社ともほぼ同様の削減幅である一方、固定費、特に人件費の削減幅に差があることが分かる。19年4~6月期と21年同期を比べると、JALが人件費を約2割落としているのに対し、ANAHDは3割近く落としているのだ。

【用語解説】→営業費用・固定費・変動費

営業費用は営業活動から生じる費用。損益計算書上では売上原価と販売費・一般管理費に分けて計上されている場合が多い。固定費はそのうち、生産量や売上高の増減にかかわらず生じる費用で、一般的には人件費やオフィスの賃料などが当たる。航空会社の場合は機材のリース料や減価償却費などの割合が多く、他産業に比べ固定費比率が高い。変動費は生産量に応じて額が増減する営業費用。航空会社は燃油費などがその代表だ。

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 ANAHDは賞与や月給のカットで踏み込んだ手を打った。中核会社の全日本空輸の場合、20年度の賞与は夏の月例賃金1カ月分のみ。21年度はゼロとなる見込みだ。月給も数~十数%カットしている。いち早く社員の一時帰休を実施し、雇用調整助成金の受給にも動いた。

【用語解説】→一時帰休・雇用調整助成金

一時帰休は生産調整などによって人手が余った場合、従業員を休業させること。ANAHDは20年春にいち早く実施し、人件費の抑制に努めた。企業は休業させた場合、休業手当で給与を補填する必要があるが、その財源に活用できるのが国の雇用調整助成金だ。コロナ禍を受け、助成率や支給額の上限を高めるなどの対策が取られている。JALは一時帰休による雇調金は受給していないものの、教育訓練を実施したり、社員を外部に出向させたりした場合に受け取れる雇調金は受給している。21年3月期、ANAHDは雇調金を434億円受給した。JALは今後受給する分も含め、20年度分は約100億円の雇調金を受給する見込みだ。

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