コロナ禍による需要蒸発が直撃した航空業界。しかし大手2社が受けたダメージやそれへの対処は必ずしも軌を同じくしていない。10月29日、ANAホールディングス(HD)は営業損益が1160億円の赤字となり、22年3月期通期の業績見通しも黒字予想から1250億円の赤字へ下方修正すると発表した。一方の日本航空(JAL)も業績は厳しいが、財務を見ると相対的には健全性が高い。「ドーピングをしたボディービルダーのようだ」。航空業界の一部で出回った「怪文書」は、2010年の経営破綻時に受けた債権放棄や公的資金の注入などを「ドーピング」と例え、コロナ禍を受けてもなお40%台と高い自己資本比率を保つ姿を「筋肉自慢」と揶揄(やゆ)した。

 特集「ANA・JAL 苦闘の600日」と題して、航空大手2社の経営が、コロナ禍にいかに苦しみ、いかに向き合ったかを連載形式で追っていく。第1回の今回は、コロナ禍が2社の業績や財務に与えたインパクトやその危機を乗り越えるための打ち手の効果を、各種データをもとに詳解する。

ANAHDとJALはコロナ禍で様々な対応に迫られた(写真:Aviation Wire/アフロ)
ANAHDとJALはコロナ禍で様々な対応に迫られた(写真:Aviation Wire/アフロ)

 航空は新型コロナウイルス禍による打撃が最も大きかった業界と言っていい。①は横軸の位置が2019年4~6月期の売上高、縦軸の位置は20年4~6月期の売上高が前年同期に比べ、どれだけ減ったかを示す。

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 2019年4~6月期に1000億円以上を売り上げた企業で「蒸発度」が最大規模だったのは運営施設が休園に追い込まれたオリエンタルランドや旅行需要が急減したKNT-CTホールディングス(HD)だ。百貨店の休業や時短営業に追い込まれた三越伊勢丹HDは蒸発度が約53%、飲食店の休業で業務用のビール類の需要などが落ち込んだサッポロHDは20%台にとどまっている。一方、ANAHDと日本航空(JAL)は8割弱の売り上げが吹き飛んだ。

 ただ、日本の大手2社は海外勢に比べると財務基盤が強固だ。②は縦軸で20年3月末と21年3月末の自己資本比率の高低を示している。

 世界の航空会社で最大の事業規模を誇る米デルタ航空は20.8%から0.7%に急低下。米アメリカン航空や仏蘭エールフランスKLMは債務超過に陥った。独ルフトハンザは政府からの資本注入を受けたが、21年3月末には5.2%まで落ち込んだ。

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【用語解説】→自己資本比率

資本金や稼ぎ出した利益の蓄積である利益剰余金などを合算した自己資本が総資産に占める割合。この値が高いほど、財務の健全性が高いと言える。自己資本と純資産はほぼ同額になる場合が多い。自己資本比率は金融機関が融資の審査をする際に重要視される。数字を高めるには着実に利益を積み上げていくのが一番だが、増資をするなどして自己資本を増やし、借入金の返済を進めていくなどの方法もある。

【用語解説】→債務超過

自己資本(純資産)がマイナスの状態。企業の資産を全て換金しても負債を返しきれない状況を指す。債務超過が続くと、日本では東京証券取引所の上場廃止基準に抵触する可能性もある。

 一方日系は21年3月末時点でもANAHDが31.4%、JALも45%と高水準だ。コロナ禍発生後、そろって公募増資を実施したほか、JALは10年の経営破綻で債権放棄が実施されたことなども要因にあるが、何よりコロナ禍前の約10年間はおおむね業績が好調で順調に内部留保を積み上げていた。

 とはいえ、日系2社の業績の回復スピードは遅い。②の横軸は20年4~6月期と21年4~6月期の最終損益を示している。米大手ではデルタ航空とアメリカン航空は21年4~6月期、ユナイテッド航空は7~9月期に既に黒字転換を果たした。

 ワクチン接種がいち早く進み、旅行マインドが回復した米国は「国内線のレジャー需要は既にコロナ禍前の水準に回復している」(デルタ航空)。国土が広い米国は事業規模に占める国内線の割合が大きい。一方、国際線が多くを占める欧州勢は業績回復が進んでいない。

 日本はコロナ禍前の旅客収入に占める国際線と国内線の比率がおよそ半々だった。米国勢ほどではないものの、欧州よりは国内線の需要回復が業績に直結する。ただ、ワクチン接種の出足の遅れや断続的な緊急事態宣言の発出が国内線の回復を遅らせた。

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