10月1日、一部都道府県を対象としていた緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が全面的に解除された。医療提供体制の改善をもたらした一因とされる新型コロナウイルスのワクチン接種率の上昇で旅行マインドの回復の兆しも見え始めている。その受け皿として、日本航空(JAL)やANAホールディングス(HD)が期待しているのが格安航空会社(LCC)事業だ。フルサービスキャリア(FSC)事業は、コロナ禍をきっかけに長期的な減少傾向に転じたとされる出張などビジネス需要が大きな割合を占める一方、LCCはレジャー需要が中心。大手2社はそのポテンシャルに期待を寄せ、傘下のLCCへの影響力を強めようとしている。


 航空業界を担当する高尾泰朗です。日経ビジネス電子版では10月下旬から、航空業界をテーマとした特集連載を展開します。先立って、読者の皆様から航空業界への疑問や質問、意見を募集します。今回はLCCがテーマです。記事をご一読の上、コメント機能を使って投稿してください。いただいたコメントは、それを基に取材・調査するなど記事制作に反映させていきます。連載は本シリーズに掲載していきます。読み逃しのないようにこちらからWATCHをお願いします。

緊急事態宣言が解除された10月1日朝の羽田空港は平日かつ台風16号の影響もあり、大きな混雑はなかったものの、航空各社の10月搭乗分の国内線予約数は大きく伸びているという
緊急事態宣言が解除された10月1日朝の羽田空港は平日かつ台風16号の影響もあり、大きな混雑はなかったものの、航空各社の10月搭乗分の国内線予約数は大きく伸びているという

 「お客様の(旅行など)移動への期待感を示している」

 10月1日、羽田空港で取材に応じた全日本空輸(ANA)の井上慎一代表取締役専務執行役員がこう強調しながら紹介したのが、10月搭乗分の国内線予約が1日でどれだけ増えたかを示す数字だ。9月前半は1日約5000件と低調だったが、ワクチン接種率が上昇し、感染者数などが減少した結果、緊急事態宣言などの解除が視野に入ってきた9月中旬から予約の伸びが高まってきた。9月末には1日約5万件という水準に達した。

 もちろん、10月に近づくにつれ、10月搭乗分の予約が増えるのは当たり前のことだ。ただ「この伸び方は通常時だとあまり見られない」(ANAHD広報)。2021年に入り緊急事態宣言が長期化した結果、消費者の旅行熱はマグマのようにたまっていたのだろう。JALも9月23~29日に入った10月搭乗分の国内線予約はその前の1週間に比べ2.2倍に増えたという。

 想定通りの動きと言えそうだ。ワクチン接種で先行した諸外国では、いち早く国内旅行需要が高まっていた。例えば米国では、疾病対策センター(CDC)が接種完了者に自由な国内旅行を認めている。7月以降は回復スピードの減速が見られたものの、米国の国内線の航空需要は観光目的を中心に盛り返し、アメリカン航空とデルタ航空は21年4~6月期、最終黒字に転換した。JALの赤坂祐二社長はこうした米国などの状況を踏まえ「需要の回復はワクチンの接種率が大きく左右している」とした上で、「需要の回復が始まるのは秋口ぐらいから」と6月時点で予想していた(参考記事:JAL赤坂社長「統合はない、LCCで再成長」)。

 日本は9月、ワクチンの接種率で米国を逆転した。航空各社はついに需要回復に向けた素地が整いつつあると見ている。

 だが、時計の針が戻ることはない。JALやANAが強い高単価のビジネス需要はテレワークやオンライン会議などの普及でコロナ禍前の水準にはもう戻らないとの見方が大勢だ。そこで大手2社がアフターコロナの再成長に向けて期待をかけるのが、観光や帰省などレジャー需要が中心のLCCだ。

 JALは中国発の訪日需要の取り込みを図るべく、中国の大手旅行会社をルーツに持つ春秋航空日本を連結子会社化し、50%を出資している豪カンタスグループとの合弁会社、ジェットスター・ジャパンへの追加出資も済ませた。20年に事業を本格開始した、国際線の中長距離路線を主に担う完全子会社のジップエア・トーキョーを加えた3社で「成田空港を中心としたグローバルなLCCネットワークをつくる」(JAL赤坂社長)という。

 一方ANAHDは22年度後半にも、100%出資会社でグループのアジア路線を担ってきたエアージャパンを母体とし、FSCに比べ低価格な「第3ブランド」をアジア・オセアニア路線で提供する。さらに、子会社のLCC、ピーチ・アビエーションとの連携策も相次いで打ち出している。

 8月には、ピーチが運航する便の一部座席をANA便として販売するコードシェア(共同運航)が始まった(参考記事:「ANA枠」はわずか5席 ピーチとのコードシェア、その中身とは)。10月末からは、従来ANAが運航していた中部・福岡空港と北海道・沖縄県を結ぶ便の一部をピーチによる運航に置き換える取り組みも始める。ANAは大型機を中心に保有機材数を削減する中、国内線は高収益路線に経営資源を集中させていく考え。レジャー需要の比率が高い北海道・沖縄発着路線での「運航移管」はその一環だ。

 ただ、大手2社とLCCとの連携策は迷走している節もあり、その効果を疑問視する声もある。

 例えばピーチとANAのコードシェアと運航移管。コードシェアはANA利用者の便の選択肢を広げ、利便性を向上させる狙いがあり、現在は成田と札幌・福岡・沖縄、中部と札幌・沖縄を結ぶ路線で実施しているが、10月末にANAからピーチに一部便の運航が移管される路線の全てがその対象になるわけではない。2つの施策の狙いを鑑みれば、運航を移管する便でもコードシェアを実施し、ANA利用者の便の選択肢の数を維持するのが筋といえよう。

 「ANAHDではコロナ禍後、もっと大胆にANAとピーチの役割の違いを明確にする方向性の議論も進んでいた」(関係者)との見方もある。例えばピーチが拠点とする関西空港、また20年から乗り入れを始めた中部空港を発着するANA運航便を大幅に削減するといった具合だ。ANAの利益の源泉はビジネス需要に支えられた羽田空港発着路線。関西・中部は事実上ピーチに任せ、ANAは羽田発着を中心とした高収益路線に集中するという構想だが、結果的にANAとピーチの連携策はスケールダウンしてしまった。

 「そもそも、FSCとLCCが連携するという発想自体がナンセンス」。こう話すのは大手LCCの元幹部だ。

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この記事はシリーズ「高尾泰朗の「激変 運輸の未来図」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。