8月13日からおよそ4日間、記者はシンガポールを訪れた。近日掲載予定の特集記事の執筆に向けた取材が目的だ。新型コロナウイルス禍が巻き起こってから、日本は「鎖国」とも評される厳格な水際対策を講じてきた。2022年春以降、段階的に対策を緩和してきたが、今も先進国の中で入国に向けたハードルが特に外国人にとっては非常に高いままと言える。実際に海外渡航を体験してみると、日本の水際対策の矛盾が浮かび上がってきた。

8月15日朝、記者はシンガポール中心部にある同国随一の名門ホテル「ラッフルズホテル」の近くにあるクリニックを訪れた。目的は新型コロナのPCR検査。日本は入国する全ての人に、出国前72時間以内に受けた検査による陰性証明書の提出を求めている。
記者は17日夜にシンガポールを出発する航空便で日本に戻る予定だった。取材の日程や検査結果が出るまでの時間を考えると、帰国便の出発予定時刻の約60時間前となる15日朝しか検査を受ける時間を取れなかったため、このタイミングでの検査となった。ここで陽性となれば今後の取材ができないどころか、帰国が遅れてしまい経費がかさみ、特集の掲載スケジュールにも狂いが生じる可能性がある。緊張しながら検査の順番を待った。
結果的に検査結果は陰性で、記者は無事日本に帰国することができた。ただ、海外からウイルスが日本に持ち込まれるのを防ぐという趣旨を持つ水際対策において、PCR検査が果たして適当なのかという疑問を感じざるを得なかった。残念ながら現在、日本国内の感染者数は世界最多の水準とされている。国内で感染症が大流行する状況において、いくら厳しい水際対策を堅持しても経済に悪影響を与えるばかりで防疫対策上の実効性はさほど上がらない。国内の防疫対策と水際対策の基準にかい離が生じ、一貫性に欠けている。
8月中旬、現役閣僚からも矛盾が指摘された。
「これが有効ならば、そもそも帰国時の検査は不要ではないか」。8月15日、河野太郎デジタル相は同日、厚生労働省が水際対策の取り扱いについての文章を改訂したことを受け、自身のSNS(交流サイト)でこう疑問を呈した。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り3626文字 / 全文4539文字
-
「おすすめ」月額プランは初月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員なら
人気コラム、特集…すべての記事が読み放題
ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「高尾泰朗の「激変 運輸の未来図」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?