新型コロナウイルス禍に端を発した物流網の混乱に、ウクライナ危機が拍車をかけている。主要輸送モードの代替として模索されていたシベリア鉄道や北極海航路の活用がロシアのカントリーリスクの露見で見通せなくなるなど、サプライチェーンの維持に向けた打ち手は乏しい。国土交通省でシベリア鉄道の利用促進など、国際物流分野に長く携わってきた京都大学経営管理大学院特定教授の宮島正悟氏は「一連の混乱はもう収束することはないという考え方もある」と話す。

宮島正悟(みやじま・しょうご)氏
宮島正悟(みやじま・しょうご)氏
京都大学経営管理大学院港湾物流高度化寄附講座特定教授。1992年九州大学大学院修了後、運輸省(現国土交通省)入省。港湾関連の担当が長く、運輸省港湾技術研究所、関西国際空港、国交省港湾局、地方整備局(中部、近畿、四国)、国土技術政策総合研究所、総合政策局などを経て19年7月、国交省大臣官房参事官。20年7月から現職。

宮島さんは国土交通省で日ロ欧間の貨物輸送におけるシベリア鉄道の利用促進に携わってこられました。

京都大学経営管理大学院特定教授・宮島正悟氏(以下、宮島氏):国交省では2017年ごろから機運が高まりだし、18年からパイロット事業としてシベリア鉄道を使った輸送を始め、2年ほど関わりました。20年7月に私は現職に転じましたが、その後も国交省ではプロジェクトが進んできました。

 トラックによる輸送に比べ、海運は二酸化炭素(CO2)の排出を削減できますが、(電化された)鉄道に置き換えれば削減効果はさらに高まります。鉄道の輸送力は(海運に比べ)微々たるものではありますが、欧州は環境意識が高いだけに事業者からの評価は鉄道を使った輸送の方が高まります。

冷戦下ではシベリア鉄道を使った日欧間の貨物輸送が今に比べれば盛んだったようですね。

宮島氏:そうですね。ただソ連崩壊でそれがほぼゼロになって今に至ります。最盛期はソ連を通過するという不安感が(荷主やフォワーダーに)ありながらも、コストが抑えられるので活用が進んでいました。輸送コストはその当時からあまり変わっていません。ただ、海上輸送のコストが劇的に下がり、輸送品質も高まっていった結果、シベリア鉄道の地位が下がったという見方もできます。

シベリア鉄道はソ連崩壊以降、国際物流の手段としてはあまり使われてこなかったのでしょうか。

宮島氏:ほとんどがロシアの国内貨物輸送に使われてきました。しかも荷物は大半が石炭や鉄鉱石。その隙間でコンテナ輸送をしている程度でした。ロシア国内でもシベリア鉄道をコンテナ輸送に使おうという発想はあまりなかった。ただ(2010年代に当時の)安倍晋三首相とプーチン大統領との間でシベリア鉄道の利用を促進する方向で議論が進み、ここから急にロシア鉄道の中でも(シベリア鉄道を国際貨物輸送に活用する機運に)火が付いた。

 日本は、自動車業界をはじめとするロシア国内に工場を持つ事業者の部品などの輸送に一部利用してきましたが、潜在的には欧州向け貨物の方がニーズが大きい。そこで日欧間を結ぶ(海運などの)代替ルートとしてシベリア鉄道を活用したい、となったわけです。