ロシアによるウクライナ侵攻が世界のサプライチェーン(供給網)に深刻なダメージを与えている。特に影響が大きいのが航空輸送だ。東アジアは世界の航空輸送の拠点となってきたが、ウクライナ侵攻で日本や韓国の航空会社が対応を迫られている。全日本空輸(ANA)や日本航空(JAL)、日本貨物航空(NCA)といった日本勢は欧州路線の旅客・貨物便を運休したり、ロシア領空を迂回するルートで運航したりしている。大韓航空など韓国勢も欧米路線でロシア領空を通過しない迂回ルートでの運航に切り替えた。

 ただでさえ新型コロナウイルス禍で旅客便の運航数が減り、貨物スペースの供給が不足していた。さらに海運の混乱によって航空輸送の需要が高まり、貨物運賃は高止まりが続く。ウクライナ情勢の悪化はこの傾向に拍車をかける。企業のサプライチェーンの維持にまた一つ難題が加わった格好だ。アジアの国際物流事情に詳しい日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の池上寛氏に、航空貨物市場の今後の動向について聞いた。

航空貨物の市場では、香港や中国・上海、韓国・仁川、成田、そして台湾といった東アジアの空港は非常に存在感が大きいです。これはアジア・北米間というサプライチェーンの「動脈」を結ぶに当たり、立地的な特性を生かせているということなのでしょうか。

池上寛(いけがみ・ひろし)氏
池上寛(いけがみ・ひろし)氏
日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所開発研究センター経済統合研究グループ長代理。1997年にアジア経済研究所に入所し、台湾の中央研究院経済研究所への派遣などを経て、2012年に新領域研究センター企業・産業研究グループ長代理に。その後台湾の商業発展研究院に海外調査員として派遣され、18年4月から現職。

ジェトロアジア経済研究所・池上寛氏(以下、池上氏):そうですね。立地に加えて、アジア域内での航空による貨物輸送が大きな役割を果たしています。

 日本の状況からもその様子が見て取れます。財務省の貿易統計によると、日本から中国への輸出金額は21年に約18兆円でしたが、その内33%は航空を使った輸出でした。台湾や香港、シンガポール向けに至っては、その割合が5割を超えています。

 この視点でウクライナ情勢が影響を与えそうな日欧間を見てみましょう。まず日ロ間を見ると航空を使って輸出された金額は5%ほど。輸入も10%ほどであるため、影響は限定的です。

 ただ、欧州全体ではドイツ(約54%)を筆頭に、輸出金額に占める航空輸送の割合が高い国はそれなりにあります。さらに輸入に目を向ければ、ドイツのほか、フランスやイタリアからは金額ベースで5割以上を航空輸送に頼っている。日欧間では特に輸入へのウクライナ情勢の影響が大きいと言えます。

現在、日欧の航空会社はロシア領空を迂回する航路で日欧間を運航しており、便数も減っています。貨物輸送にどのような影響を与えるのでしょうか。

池上氏:旅客便にせよ貨物便にせよ、便数が減れば貨物スペースの供給は減ります。旅客便も客室下の貨物室(ベリー)で貨物を運ぶからです。そんな中でも航空で貨物を運ぼうとすると、どこかを経由せざるを得ないケースが出てきます。(貨物輸送に強いアラブ首長国連邦の)ドバイが一つの選択肢となりますし、あるいは香港経由などに流れる可能性もあります。

これまで日本の航空会社を使っていた荷主が、他国の航空会社に流れる可能性があると。

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