ANAホールディングス(HD)は2月15日、2023年度から3カ年の中期経営計画を発表した。最終年度となる25年度には新型コロナウイルス禍前を上回る売上高2兆3200億円、営業利益2000億円を目指すという高い目標を掲げた同社。コロナ禍を経て大型機を中心に保有機材数が減った中での強気の目標の達成には、危機以前では考えられなかった戦術を考慮に入れる必要がある。

ANAHDが2月2日に発表した22年4~12月期決算は売上高が21年同期比で7割増の1兆2586億円で営業利益が989億円、純損益は626億円の黒字となった。1~3月は航空業界にとって閑散期。23年3月期通期では売上高が1兆7100億円で営業利益は950億円、純利益が600億円となる見通しで、コロナ禍以降初の黒字化は確実視されている。
新たな中期経営計画の中で、24年3月期はグループ全体の国内線需要がコロナ禍前の19年(1~12月)と比べて95~100%、全日本空輸(ANA)と23年度後半に就航予定の第3ブランド、「AirJapan(エアージャパン)」を合わせた国際線需要が19年比で7割まで回復するとの前提で、売上高を1兆9800億円、営業利益を1200億円、純利益を630億円まで引き上げる目標を掲げた。売上高で見れば終盤にコロナ禍の影響を受けた20年3月期並みまで回復する一方、利益ベースで見ると最高益を記録した19年3月期の6割前後にとどまるとみる。
売上高の回復ペースに比べ、利益ベースでの業績回復が遅れるようにも見えるが、その背景には着陸料などの公租公課の減免といった公的支援の縮小がある。国土交通省はコロナ禍以降、航空機燃料税や空港使用料をコロナ禍前に比べ大幅に減免。22年度は業界全体で700億円の負担軽減効果を享受していたが、このうち空港使用料は23年度から減免規模が縮小し、負担軽減効果は500億円に抑えられる。単純化すれば、業界全体で利益が200億円押し下げられることとなる。
公的支援が支えた黒字転換
他にも雇用調整助成金の助成率や上限額が徐々に縮小するなど、航空業界が頼ってきた公的支援は経済活動の正常化に歩調を合わせるようにしぼんでいく。ANAHDの芝田浩二社長は、燃料費の高騰や公租公課の減免幅の縮小などを総合すると、24年3月期は500億円ほどの収支のマイナス要因があるとした上で「その大部分は公租公課によるものだ」と話す。
逆に言えば、23年3月期の業績向上は公租公課の減免に大きく支えられて実現した、との見方もできる。航空機燃料税は25年度以降、段階的に減免幅が縮小される予定で、今後も公的支援は縮小の一途をたどる。そんな中、ANAHDは中計の最終年度となる26年3月期に売上高が2兆3200億円、営業利益と純利益がそれぞれ2000億円、1220億円と全段階で過去最高を記録する見通しを立てた。
強気とも取れる計画の前提にあるのは、運航規模の拡大だ。ANAHDは26年3月期、グループ全体で旅客事業の、供給座席数と運航距離のかけ算である「生産量」を20年3月期に比べ5%増やす計画を立てている。
ただ、この実現可能性は極めて不透明だと言えるだろう。
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