ANAホールディングス(HD)は2月10日、4月1日付けで芝田浩二代表取締役専務執行役員が社長に昇格し、事業会社の全日本空輸(ANA)の社長にLCC(格安航空会社)、ピーチ・アビエーションの前CEO(最高経営責任者)である井上慎一氏が就く人事を発表した。新型コロナウイルス禍の影響で経営陣の刷新時期が遅れていたものの、コスト削減などの構造改革が進んで2023年3月期の黒字転換に一定のメドが付いたこともあり、このタイミングでのトップ交代に至った。その人事の真意を推し量ると、ANAグループの再成長に向けた「覚悟」が見えてくる。

「最強の布陣をつくったということだ」。10日、記者会見で一連の人事の意図について問われたANAHDの片野坂真哉社長はこう胸を張った。15年から社長を務めてきた同氏はANAHDの会長となり、後任の社長として芝田浩二氏を据える。17年からANA社長を務めた平子裕志氏はANAHD副会長となり、ANA代表取締役専務執行役員の井上慎一氏が社長に昇格する。
これまでANAHDやANAの社長は4年での交代が通例だった。ただ「4年は短い」との議論が経営層の中で巻き起こり、片野坂社長は在任5年目も続投した。念頭にあったのは20年3月の羽田空港国際線発着枠の拡大、そして20年夏に開催予定だった東京五輪・パラリンピックだ。国も20年に訪日外国人客数を4000万人まで増やすとの目標を掲げる中で、ANAHDは国際線を中心とした拡大戦略にまい進してきた。節目を見届け、20年春、あるいは21年春の社長交代が既定路線だったと言える。平子氏も21年春を社長交代時期として見据えていた。
そんな中、20年初頭に巻き起こったのがコロナ禍だった。羽田の発着枠拡大を機に新規就航を予定していたイタリア・ミラノやトルコ・イスタンブールなどにはいまだ旅客便を飛ばせていない。東京五輪・パラリンピックも開催が1年延期となった。何より、旅客需要が急減し、経営は一気に傾いた。立て直しに向けた構造改革を進めるため、経営陣の刷新時期は後ろにずれた。
足元でも、感染力の高い変異ウイルス「オミクロン型」の感染拡大が旅客需要に影を落とし、業績は完全な復調傾向にあるとはとても言えない。ただ、光明は見えつつある。21年10~12月期は8四半期ぶりに営業黒字へ転換した。大型機を中心とした保有機材数の削減などを柱としたコスト削減策が一定の成果を発揮したためだ。「コロナ禍は終わっていないが、23年3月期の黒字化は十分果たせる。今なら交代できる」(片野坂氏)
これまで実施してきたコスト削減策のさらなる深掘りは難しい。劣後ローンなどを含む有利子負債額がコロナ禍前の2倍にまで膨らんだANAHDに今求められているのは、ウィズコロナ、アフターコロナでも通用する増収策だ。片野坂氏が「最強の布陣」として芝田氏・井上氏を新トップに据えた裏には、ANAグループの再成長に向けた3つの覚悟が透けて見える。
1点目は、再成長戦略の柱は依然、国際線事業の拡大をもって他にない、という覚悟だ。
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