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新型コロナウイルスの感染拡大は、外出自粛が飲食などのサービス業の雇用を脅かし、自動車など製造業にも影響が及んでいる。企業と労働者の雇用関係が不安定となる今、1つの処方箋となりうるのが副業だ。複数の仕事を持つ個人は危機への耐性が備わり、自律した個人が集まる組織もまた強靭さを得る。企業と個人は、所属という縦のつながりから、対等な横のつながりへと関係性を変えつつある。

第1回:新型コロナの“需要消滅”が招く雇用危機、「倒産する」悲鳴続々
第2回:新型コロナで工場休止 トヨタ、日産の城下町で見た雇用危機
第3回:トヨタの“師”が語る「新型コロナで景気が悪化しても雇用は守る」
第4回:日本電産永守会長が語る雇用と危機 コロナ・ショックにどう対応?
第5回:117兆円経済対策は迅速さ、規模に欠ける 追加対策が必要
第6回:急きょマスクの製造も……新型コロナで揺れる町工場の雇用と働き方

 研修事業やイベントの企画などを手掛けるアソブロック(東京・新宿)の団遊代表は3月下旬、約15人の社員を集めた。企業での研修事業が全て中止となったり、アイドル事業でツアーが中止となったり、大幅な売り上げの減少は避けられなくなったからだ。新型コロナウイルスの感染拡大が収束する時期を見通せず、景気の低迷が長期化する懸念が強まる中、団遊代表は「3月で会社を解散することも覚悟していた」と打ち明ける。

 この4月に新入社員2人を迎える予定だった。このまま解散してしまっていいのか……。話し合いは3~4時間にも及んだ。その結果、「アソブロックという共同体をどう守るのかという発想になった」(団氏)という。

アソブロックの社員たち。全員が「副業」をしている

 アソブロックは「兼業必須」という方針を掲げ、社員全員に副業を義務付けている。同社に決まった事業はなく、社員がそれぞれ「好きなこと」を事業として手掛け、給料は社員が自らの成果を踏まえて申告して決まる。オフィスに社員全員がそろうのも、年2回の「社員会議」しかない。

 「個人事業主」が集っているような組織に見えなくもない。それでも、「多様な人たちと触れ合えるアソブロックにいた方が成長できる」と考える人たちが、「社員」として雇用契約を結んできた。新しい組織の形が、コロナ・ショックによる雇用クライシスを乗り切るうえで機能しそうだ。

 マーケティング支援の企業で副業する社員は、「副業先は大丈夫だから」と、アソブロックでの仕事をほかの社員にシェアすると提案した。研修事業を手掛けていた別の社員は、自分が担当する事業の売り上げが減ったことから給料も減らすことを検討。さらに別のパート社員は家族の収入も合わせれば生活を維持できると考えて、勤務日数の削減を申し出た。そうして捻出した原資を、アソブロックからの給料が生計維持に欠かせない社員に振り分けることができた。

 スペインではコロナ・ショックを受けて最低所得を保障する「ベーシックインカム」制度が導入されることが決まった。団氏はこうした世界の動きを見て、「お互いの生活を考慮して自分の給与を決めることで、結果的にベーシックインカムのような形になる」と語る。