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新型コロナウイルスの感染拡大は雇用だけでなく、企業経営のさまざまな面に大きな影響をもたらす。課題に立ち向かうために企業がすべきことを考えるとき、アカデミックの研究には役立つ内容が多数ある。積み上げた理論と最新の分析手法に裏付けられており、さまざまな示唆を与える。武蔵野大学の宍戸拓人准教授に関連する論文の紹介と解説をしてもらった。

第1回:新型コロナの“需要消滅”が招く雇用危機、「倒産する」悲鳴続々
第2回:新型コロナで工場休止 トヨタ、日産の城下町で見た雇用危機
第3回:トヨタの“師”が語る「新型コロナで景気が悪化しても雇用は守る」
第4回:日本電産永守会長が語る雇用と危機 コロナ・ショックにどう対応?
第5回:117兆円経済対策は迅速さ、規模に欠ける 追加対策が必要
第6回:急きょマスクの製造も……新型コロナで揺れる町工場の雇用と働き方
第7回:副業が社員を強くする コロナ・ショックが加速する新しい雇用の形

新型コロナウイルスの感染拡大という大きな課題に立ち向かうために、アカデミックの研究には役立つ内容が多数ある(写真:PIXTA)

コロナで求められるのは政府よりも企業の力

論文(1):災害レジリエンスの高め方

Ballesteros, L., Useem, M., & Wry, T. (2017). Masters of disasters? An empirical analysis of how societies benefit from corporate disaster aid. Academy of Management Journal, 60(5), 1682-1708.

 災害に対する伝統的なアプローチでは、発生や規模についてのリスクの計算に焦点が置かれており、その精度を高めることで災害のもたらす影響を緩和できると考えられていた。しかし、現在、災害は予想だにしない原因や出来事によって発生するため、リスクを正確に計算することは不可能である。従って、事前のリスク計算ではなく、災害が生じた事後に復帰する力、すなわち「レジリエンス(回復力)」に注目すべきだと考えられ始めている。

武蔵野大学の宍戸拓人准教授(写真:栗原克己)

 レジリエンスは多くの場合、ストレスや逆境に打ち勝つ人の復活力や適応力を意味する言葉として用いられてきた。この概念を災害後の社会や組織の復帰力を説明する言葉として応用したものを、特に災害レジリエンスと呼ぶ。

 ここに挙げた論文は、社会全体の災害レジリエンスを高める上で、政府だけではなく会社が重要な役割を果たすことを示す。災害からの復帰においては、何が必要となっているのかを迅速に理解し、それを満たすアクションを即座にとるために、既存のリソースやルーティンを俊敏に組み変えることが求められる。

 これは戦略論で伝統的に議論されてきた「ダイナミック・ケイパビリティー」と呼ばれる能力であり、その能力は政府に比べて民間の会社のほうが高いレベルで持ちうることを、この論文は実際のデータから示している。

 なぜこうなるか。政府は現場で生じていることを直接的な1次情報として獲得できないため、民間の会社に比べてニーズについての理解が遅れる。さらに集権的な官僚制組織(ヒエラルキーやルール、マニュアルなど)や政治的利害によって、既存のルーティンやリソースを組み替える意思決定を行うことにも多大な時間がかかる。それ故、ダイナミック・ケイパビリティーを持つ民間の会社が、社会全体の災害レジリエンスを高める上で大きく貢献する。

 こうした仮説を検証するために2003年から2013年までの自然災害のデータを収集し分析している。分析結果において、民間の会社の介入が最も多い場合にレジリエンス力が高まり、全く介入が無かった場合と比べた際の復興の程度の差が著しいことが実証的に示された。

 宍戸氏は「この論文は災害時にルーティンやリソースをどれだけ早く組み替えられるかが大切であることを示している。企業の果たす役割は大きい。ただし、ダイナミック・ケイパビリティーは経営学では災害時向けのコンセプトではなく、長期的な競争優位を維持している会社が持つ普遍的なもの。つまり、現在の状況を前に『災害時には別のマネジメントがある』といった議論をしがちだが、企業に求められるコアな部分は変わらないことを示す。むしろ、会社が普遍的な力であるダイナミック・ケイパビリティーを持っているかどうかが試される状況ともいえる」と話す。