新型コロナウイルスの感染拡大がもたらす「雇用クライシス」。外出自粛による需要の急減が飲食などのサービス業に関わる人々の雇用をリスクにさらしているが、その波は製造業にも及び始めている。注視すべきは、裾野が広い自動車業界。トヨタ自動車と日産自動車の工場の現場従業員からは、突然襲ったコロナ・ショックでこの先の雇用契約がどうなるのかといった不安の声が漏れている。
「不安? なくはないですよ。でも、今の働き方でいろいろ考えてもどうにもならない。だから先のことは考えないようにしている」
トヨタ自動車九州の宮田工場(福岡県宮若市)で派遣社員として働いてきた20代の男性はスマートフォンの画面を見ながら淡々とこう話す。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済の減速は雇用にかつてない暗い影を落としつつある。
「どうなるか分からない」
福岡県宗像市のJR教育大前駅。徒歩数分のコンビニ付近に午後3時前、近くのマンションから男性が三々五々集まり、次々到着する小型バスに足早に乗り込む。行き先はトヨタの宮田工場。彼らはそこで働く派遣社員らだ。新型コロナウイルスの感染拡大で国は緊急事態宣言を発令。福岡は最初対象になった7都府県の1つだが、工場は自粛の対象外。働き方への影響は今のところ軽微にとどまる。

だが、視野を世界の流れに転じれば、雇用クライシスは待ったなしの状態にあるのは明白だ。自動車は海外で需要が減速。米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)、日本のメーカーなど自動車大手は工場の稼働を世界各地で一時休止している。米国では従業員の大規模な一時帰休が始まっている。国内も各社が生産を一時停止。トヨタは4月3日から輸出向け車種を製造する国内5工場7ラインを一時休止した。
宮田工場は北米向けの「レクサス」を多く生産しており北米の需要減少の影響が大きく、稼働停止が9日間。5工場で最長となった。派遣会社の契約社員として働く30代の男性は「いろいろ起きていることは知っている。会社からは何も聞いていない。この先どうなるか」と不安を口にする。
トヨタは4月15日、さらなる減産を発表した。グループ会社を含めて国内の完成車全18工場で生産調整に踏み切る。翌16日、政府は非常事態宣言が全国に拡大した。感染拡大の影響が長期化している。
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