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JR九州の子会社が60億円かけた高速船が完成した。福岡と韓国・釜山を結ぶ国際航路に利用するはずだったが、コロナ禍で運航再開の見通しが立たない。陸の鉄道サービスで乗客が戻らず減便を検討中のJR九州。海の上でも悩ましい事情を抱えている。

JR九州高速船(福岡市)が60億円かけて建造した「クイーンビートル」。就航のめどは立っていない

 福岡市の博多港に、鮮やかな赤い船体がひときわ映えるオーストラリア製の巨大な高速船が、ほとんど動くことなく係留され続けている。JR九州高速船(福岡市)が福岡~釜山航路のために導入した「クイーンビートル」だ。

 11月24日に完成披露の式典を開いたが、親会社であるJR九州の青柳俊彦社長は「残念ながら(日韓航路の)運航再開のめどは立っていないのが実情。その点を心配している」と述べた。同社は日韓を結ぶ高速船を他にも保有しているが、コロナ禍で3月から運休したまま。当然、新しい高速船も10月に博多港に到着して以降、動くことができていない。

 JR九州は国鉄分割民営化から3年後の1990年に、米ボーイングが開発した水中翼船「ジェットフォイル」で船舶事業に参入。翌91年に日韓航路を開設した。鉄道の赤字を埋めるために多角化を推進した同社の象徴的な新規事業の1つとして知られる。

 JR九州がクイーンビートルの建造を決めたのは2017年12月。訪日観光の旺盛な需要を受け、年間20万人弱で推移していた福岡~釜山航路の利用客数を30万人に引き上げようという強気の経営判断を下した。だが、20年3月期の段階で建造費の全額、約60億円を特別損失に計上した。コロナ禍そのもので需要が消えたということ以外に、2つの誤算があった。

 1つは、船舶にかかる税金などコスト面で有利なパナマ船籍にしたことだ。以前から保有するジェットフォイル3隻は日本船籍のため、日韓航路の休止後は博多と呼子(佐賀県)、対馬(長崎県)を結ぶ国内便を運航し、少しでも収入を得ようとしている。しかし外国船籍のクイーンビートルは、そもそも国内航路に使うことができない。このため、日本に到着した後も活躍の場が全くなく、博多港に係留され続けてきた。

 国土交通省と協議を続けた結果、コロナによる救済処置として国内での利用が特別に認められる見通しとなった。九州運輸局長の岩月理浩氏は式典で「当面は国内でファンを増やし、日韓航路への就航に備えてほしい」と述べた。ただ、出発地と到着地が同一の遊覧航海に限定され、2地点間の輸送はできない。クイーンビートルの活躍の場はかなり限られたものになる。

船内には飛行機のように多くの座席が並んでいる

 2つ目は、既存のジェットフォイルが約200席だったのに対して、クイーンビートルは502席と、2.5倍に大型化したことだ。これはANAが保有する超大型機エアバスA380(520席)に匹敵する座席数となる。JR九州高速船の水野正幸社長は「今まではピーク時を中心に満席が続き、乗客を取りこぼしていた。年間を通じて考えればペイできると踏んだ」と話す。

 ただ仮にコロナが沈静化して日韓航路が再開されても、利用客の数が以前の水準に戻るかどうか不透明だ。より多くの客が集まるサービスほど、消費者は警戒する。「既存のジェットフォイルと比べて燃料費は1.75倍。乗員も多く必要で、運航コストは高くなる」(水野氏)。クイーンビートルの運賃は既存のジェットフォイルと変わらないため、より多くの乗客を運ばなければ採算は悪化する。