JR西の場合、運行する新幹線は山陽新幹線(新大阪~博多)と北陸新幹線(金沢~上越妙高)だけ。東京を起点に、東北地方の各県庁所在地や新潟、長野へと乗り換えなしの新幹線ネットワークを張り巡らせているJR東とは状況が違う。荷物輸送の対象エリアを広げるためには、途中停車駅での積み込み、積み下ろしや在来線との乗り継ぎが不可欠だった。

 さらに対象エリアを広げるためには、事業エリアを越えた輸送も必要になってくる。すでに北陸新幹線では、直通するJR東と組んで北陸~首都圏間の荷物輸送が始まっている。山陽新幹線では直通先の九州新幹線を運行するJR九州と組み、11月19日に米子から鹿児島へとカニを輸送した。今後、東海道新幹線を運行するJR東海とも協議が進めば、山陽・山陰・九州と首都圏を結ぶ荷物輸送も視野に入る。

古い車両、揺れが心配されたが……

 ハードルの高さという意味では、カニを生きたまま運ぶということも1つの挑戦だった。

 内山氏は以前、松江駅長を務めた経験があり、山陰地方の特産品開拓にも携わってきた。カニの生態にも詳しく、「実はカニは強い振動など危険を感じると、脚を自ら切ることがある」と話す。トカゲのしっぽ切りと同様、切り落とした脚で外敵の注意を惹き、逃げる時間を稼ごうとするためだ。

 つまり、目的地まで生きたまま、それも脚が切れていない完全な状態で運ぶことができれば、輸送品質が高いことの証明になる。

 新幹線は乗り心地の改善に力を入れており、振動が少ない自信があった。ただ、在来線の特急やくもはカーブの多い路線を走行。特急列車としては最も古い、約40年前に旧国鉄が製造した車両を使い続けており、揺れが大きいと言われている。それでも今回、問題なく京都まで輸送できたことは、荷主開拓へのアピールポイントになりそうだ。

特急やくもは「最後の旧国鉄型特急車両」として知られる381系を使う
特急やくもは「最後の旧国鉄型特急車両」として知られる381系を使う

追加投資が全く要らない

 今回のカニ輸送は、荷主、配送先ともJR西日本のグループ会社だった。「輸送費だけでなく商品の販売収入も含めてJR西日本グループの収益となる」(内山氏)半面、輸送のパイは限られている。内山氏によると、現在、佐川急便をはじめとする物流大手との協議が最終段階に入っており、物流大手が集荷・配送する形での鉄道輸送も実現する見込みという。

 いずれも「すでにあるグループ内の物流会社の要員や車両の空きスペースを利用しており、追加投資は全くない。得られた輸送費がそのまま利益になる」(内田氏)。1個1個の収入が多いとは言えないが、固定費が高い鉄道事業の収益改善には確実に寄与する。そのために、現場の社員が試行錯誤を繰り返し、事業化にこぎつけた。

 もっとも、追加投資がないといってもニーズが広がらなければ事業としての継続は難しい。次回はあの手この手で荷物輸送の需要開拓に奔走するJR九州の事例を紹介する。

 連載では以下の記事を掲載していきます(内容は変わる場合があります)。
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・JR西と東武、普通列車で野菜輸送 普段使い狙う
・JR西と阪急阪神、“直通”するのは電車ではなくデータ

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