そしてこの組織にはもう1つの顔がある。各県内に停車駅の設置を実現させるというものだ。JR東海がリニア中央新幹線を建設する主眼は東名阪の所要時間短縮と東海道新幹線の老朽化や地震災害に備えた輸送の二重系化だ。しかし山梨県、長野県、岐阜県といった沿線自治体は、建設に協力することで中間駅の設置を勝ち取り、地域振興の起爆剤として期待する。

 ただ、リニア中央新幹線は静岡県内は南アルプスの山奥を通過するだけなので、静岡県にとって駅を設置するメリットは皆無。仮に新駅を求めるとすれば、静岡空港駅になるのではないか。

JR東海も地元との対話を強化

 実際、静岡県が建設期成同盟会に加盟した後、山梨県の長崎幸太郎知事などが静岡空港駅の建設要望について議題に取り上げたい考えを示している。

 静岡県の川勝知事は大井川の水資源問題解決を公約に掲げて県知事選を制した手前、自ら静岡空港駅の設置を持ち出して、振り上げた拳を簡単に下ろすのは難しいだろう。周辺から議論の機運を醸成していくしかない。

 JR東海も遅ればせながら、地元との対話を強化しようとしている。22年3月に、静岡支社に新たに副支社長ポストを設置した。7月からは県内の駅に大井川の水資源に関する取り組みを紹介するパンフレットを置き、利用客へアピールするとともに、意見や質問などを受け付けている。3カ月間で200件近い意見や質問が集まり、これに対する回答を公開したところだ。

JR東海は水資源問題への取り組みを説明するパンフレットを静岡県内の主要駅で配布している
JR東海は水資源問題への取り組みを説明するパンフレットを静岡県内の主要駅で配布している

 旅客収入の9割近くを東海道新幹線で稼ぐJR東海は、経済合理性だけを考えれば東名阪の移動需要を重視すればいい。日本を支える大動脈を運営し、国家プロジェクトの一翼を担う自負もあるだろう。しかし実際には他のJR各社と同様、営業エリアである中部地方から逃れられない宿命を帯びている。地域の課題と向き合っていくことが、結果的にリニアの早期開業につながるのではないだろうか。

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