黒岩知事が執拗に「国家プロジェクト」と強調したのは、静岡県だけがリニアの着工を認めないことへのけん制のようにも取れる。西九州新幹線の未整備区間を巡り、佐賀県がフル規格新幹線での整備に慎重な姿勢を示しているのと同様、国全体の便益と地域の利益のどちらを優先すべきなのか、対立が生じている。

「リニアは国家プロジェクト」と強調した神奈川県の黒岩祐治知事。左はJR東海の金子慎社長
「リニアは国家プロジェクト」と強調した神奈川県の黒岩祐治知事。左はJR東海の金子慎社長

 リニア中央新幹線は西九州新幹線と同じく「全国新幹線鉄道整備法」に基づく路線だが、JR東海が建設費の全額を負担するため、国や沿線自治体の費用負担は発生しない。沿線自治体との交渉の矢面に立つのも国交省ではなく、JR東海自身だ。

 JR東海の関係者からは「静岡県が懸念する水資源問題の解決策を提示しても、新たな問題が提示される。ゴールポストを変えられるようなもので、終わりが見えない」とため息交じりの声が聞かれる。

 リニアのトンネル内に湧き出る水は導水路トンネルを建設して大井川に戻すことで、中下流域の水量は変わらないと国交省の有識者会議も評価している。新たに焦点となっているのは、トンネル掘削時の約10カ月間、一時的に山梨県側に湧水が流出するという問題。突発湧水の危険性があり、安全確保のためには山梨県側から上向きに掘削せざるを得ないためだ。

 この問題に対してJR東海は、ウルトラCとも言える方策をひねり出した。大井川上流にある田代ダムでは、東京電力リニューアブルパワーが水力発電用に取水。山梨県側に送っている。そこで同社に協力を仰ぎ、工事期間だけ取水を制限するという案だ。こうすれば中下流域の水量は実質的に変わらない計算になる。

 JR東海の宇野護副社長は「大井川流域の市町からは分かりやすい対策という声をいただいている」と話す。しかし静岡県の川勝知事は「広い意味での地域貢献になる」と歓迎しつつも「(静岡県が求めている、県外に流出する水の)全量戻しには当たらない」との立場。解決の糸口が見いだせない状況だ。

 はたから見れば、無理難題を押しつけているようにも見える。その背景について、静岡県の幹部は「静岡県や沿線自治体には、JR東海の営業エリアでありながら、長年軽視されてきたという思いがある。JR東海に対する不信感が根本にある」と解説する。

「のぞみ通行税」に込めた不満

 古くは02年、石川嘉延前知事が「のぞみ通行税」を持ち出したことがある。東海道新幹線の主力であるのぞみは、東名阪をいかに速く移動できるかを重視しているため、静岡県は素通り。静岡駅や浜松駅に停車する「ひかり」「こだま」の本数が限られていることに不満を示した。

 また、前出の県幹部は「東海道線の沿線自治体が柔軟な運行ダイヤ変更などを要望しても、東海道新幹線との接続を優先しなければいけないといった理由でなかなか認められない」とも話す。

 目下の懸案は、東海道新幹線の「静岡空港駅」新設問題だ。石川前知事時代から静岡~掛川間の富士山静岡空港近くに新駅を建設し、空港アクセスの利便性を向上させたいとしている。しかし、JR東海は一貫して難色を示している。隣の掛川駅との駅間距離が短く、高速鉄道としての特性を損なうという理由からだ。

 静岡県は22年7月、リニア中央新幹線沿線の都道府県で構成する「リニア中央新幹線建設促進期成同盟会」に加盟した。

 建設促進期成同盟会はその名の通り、リニア中央新幹線の建設促進を目的としている。川勝知事は一時期、リニアそのものへの懐疑的な発言が目立っていたが、これで建設自体は否定しない立場が明確になった。

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